正しいことの既に約束された恋

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 俺の買ってきたハンバーガーセットの袋を見て、「こんなときにファストフードなんて」と母親はため息を吐いた。 「何でも好きな物買ってこいって」と俺は少しだけむっとした顔をする。 「何かもっとあるでしょう」と母。 「何かって?」と俺。 「蟹とか」と母。苦し紛れだ。 「ポテトもうまいよ」と俺。 ようやく、母親は袋に手を伸ばした。 食べ終わってすぐに、歯も磨かずに自室のベッドに横になってみると、天井がいつもより近い気がした。完全に気のせいだ。重力のせいかもしれない。 真剣な人と、気のふれた人と、気のふれたふりをする人が混迷するSNSを見るのも飽きてしまった。携帯電話は夕食を食べたテーブルの上に置いたままだ。どうせ誰からも見られて困るような連絡は来ない。 俺は秋房が好きだ。 クラスで一番の美人で、もしかしたら、世界で一番美しい。 数カ月前、同じようなことを井上が言っていた。「本気?」と俺は訊いた。「本気以外で好きになれる女じゃないだろ」と井上。それもそうだと俺は思った。 「美人すぎて女に見えない」と俺はそのときに井上に言った。「意味わかんねぇ」と切り捨てた井上はそれから一週間も経たない内に秋房に告白して振られた。不機嫌な井上に何故か俺は捕まって、「お前、秋房のこと好きだろ」と睨まれた。  道連れが欲しかったのだろうか、秋房穂乃香に見向きもされないのは至って平凡でありふれたことだという証明が欲しかったのだろうか、「告白とかしねーの?」と井上は俺に訊いた。しないと即答した俺に井上は理由を尋ねた。「なんでも」と答えにならない答えを俺は返した。 「誰かに取られたりとか、焦らね?」 「秋房は誰のものにもならないよ」 「なんだそれ、気持ち悪」 「誰にでも優しくて、俺たちの誰にも興味はない。一人で完成してるんだよ」 「お前拗らせてんな」 「うるさい」
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