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どうせ世界は終わるのだ。明日、学校はないけれど、昨日と同じ昼飯の時間になったら商店街へ行こう。そこでもう一度秋房に出会えたら、運命だと思って話しかけよう。間もなく世界が終わるというのに海にも行けないのなら、他にすることなんてない。
果たして、秋房はいた。まるで昨日の昼間からずっとそこにいるかのようだった。このファストフード店は二十四時間営業で、秋房は今日も学校がないはずなのに制服を着ていたから、もしかしたら本当にそうなのかもしれない。
チーズバーガーセットをテイクアウトでなくイートインで、頼んだことで俺は勢いづいて、秋房が座る窓際、カウンター席の隣に座った。
「もっと蟹とか食えばいいのに」
もしかしたら独り言と思われるかもしれないと思いつつ、俺は秋房に話しかけた。目線は窓の外の景色を見つめたままだった。
「どうして?」
秋房の視線も真っ直ぐ前を向いたままで、その先に俺はいなかった。
「世界が終わるから?」
と確信をもたないままに俺は答える。
「本当は旅行に行こうとして、こんなときにパイロットさんも仕事してないよねって諦めたの」と秋房は一息に言った。ずっと前から用意されていた言葉のように、突然すらすらと彼女は語った。
「それで代わりにハンバーガー?」と俺は尋ねる。
「世界が終わるときにまで、ハンバーグを焼いている人がいることに感動して入ったの」
秋房の口調には、ふざけているところが一切なかった。
俺は次の言葉を探して、漢字のテスト中に答えを教室中に探す小学生のようにきょろきょろと辺りを見回した。視線の先にトイレがあり、その手前に大きく視界を遮る柱があった。柱にはパート募集の貼り紙がしてある。随分昔からそこにあるものらしい。日に焼けて、更に上の方は粘着力がなくなって剥がれてきている。
「この店もいつまで続くかわからないな」と俺は言った。
「いつまでも続いてくれるといいな」と秋房。
平気な顔をしているけど、秋房もやっぱり世界が終わるのは嫌なんだろうか、と俺は思った。
小惑星接近の報道を聞いてから、ずっと不思議で仕方ないことがあった。世界は、もしかしたらそろそろ終わっていい頃合いなのかもしれないが、秋房穂乃香はどうだろうか。
神に愛されたとしか思えない美少女。世界が彼女を裏切るだろうか。
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