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(そもそも他人の心配なんて、してる場合じゃない)
そう思ったところで、先頭を歩く河野が急に振り返った。
渥美が立ち止まり、つられるように寛人も立ち止まった。
「――少し休むか」
渥美は激しく息を切らしながら「必要ねえよ」とぶっきらぼうに言った。
「倒れる前に言うんだぞ」
河野はそう言うと、踵を返して黙々と前を進み始めた。
寛人は、河野がこの森の中をずっと道を切り開いていることに、今さらながら思い至った。後ろを歩く者のために道を選び、しっかりと下生えを踏みつけ、枝葉を折って道をつけてくれていたのだ。
真っ先に何かに遭遇する恐怖もあるだろうに――。
先頭に立つのは、肉体以上に精神的な強さがないと務まらない。この果てしなく不穏な闇の中で、河野の頼もしさは心強く、救われるようだった。
その時。
目の前の繁みで大きい葉擦れの音がした。
河野の足がとまった。渥美も凍りついたように立ち止まる。
「何かいるのか……?」
河野が繁みに銃口を向けた。
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