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「いるに決まってんだろ、地上なんだから。きっと鼠かなんかだろ。前の調査の時なんかな、二十匹ほども鼠を持ち帰ったぜ俺は」
後ろから追いついてきた乾が言った。
寛人は、半年ほど前に、地上生物保管棟に多足の齧歯類が袋にぎっしり詰められて持ち込まれたことがあったのを思い出した。
(あれは乾さんだったのか)
サンプルはニ、三匹もあれば充分であるのに。仰天したうえ、置き場に困った浅田の顔を思い出し、寛人はこんな状況にもかかわらずほんの少し可笑しくなった。それら鼠は共喰いして半分以下に減ったのだが、それでも保管に困り、結局、肉食生物の餌にしたのだった。
「……河野さん、多分大丈夫なやつだ。こっちを襲うつもりなら音なんてまず立てないだろうし。逃げようとしたか、こっちの足音に驚いて身じろぎでもしたんだと思う」
渥美が息を切らしながら言った。
「襲ってくるようなやつじゃないのか……?」
河野の額にはびっしりと汗が浮かんでいた。
「虎穴に入らずんば虎子を得ず――とりあえず行ってみましょう」
斎藤はナイフを引き抜くと、すたすたと河野の前に出た。河野はぎょっとしてその肩を掴む。
「ま――待て! 下がっているんだ。俺が見る」
河野はぐっと眼前を見据え、レーザーライフルの先で茂みを割り開いた。その奥をゆっくりと覗き込み――凍りつく。
長身の乾が上からひょいと覗き込み、大仰に眉間にしわを寄せた。
「何だこれ!? 気色悪ぃー」
寛人は乾の後ろから茂みの中を覗きこんだ。
全身、大小の鱗に覆われた巨大な虫のようなものが、五匹ほど下草に身を潜めていた。体長はそれぞれ五十センチほどもある。背中には苔などの植物が生えていて、一見、土の塊にしか見えないが、それは確かに生き物だった。
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