月と街灯

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月と街灯

 ある日、街外れの一本道の半ばに、街灯が設置された。  道の周りにはなにもない。ときおり自動車が通るほかは、人間も動物もやってこなかった。  街灯は、自分がこれからずっと独りでここにいなければならないことをわかっていた。そして、それは当然のことなのだと理解していた。  しかし、夜になると意外な話し相手が現れた。 「ちょっと、あなた、そんなところにいたら邪魔よ。どきなさい」  キンキンと高く響く声に街灯は驚いて空を見上げた。それは、夜になって空に上ってきた月だった。 「どきなさいと言われても、僕は街灯です。動くことなんて出来ませんよ」  困りながら街灯が返事をすると、月はさらに高い声で抗議する。 「まあ、なによその言い方! それじゃあ、わたしの姿が隠れてもいいっていうの!?  地上の人間たちはみんな私の姿を見るのを楽しみにしているのよ! それなのに今時の街灯は、まったく、わかっていないわ!!」  大声でまくし立てられ、街灯は困り果てた。  それから毎夜毎夜、月は街灯に話しかけてきた。最初のうちは文句ばかりで街灯はうんざりしていたが、やがて月が別の話をし始めたのをきっかけに、少しずつたわいのない言葉を交わすようになった。  そして季節が変わる頃には、天気や風の方角、花の咲く頃などいろいろな話をするのがふたりの日常となっていた。  ある日、どこか落ち込んだ様子の月が、街灯に尋ねた。 「ねえ、あなたはそんなところに独りでいて、寂しくないの?」 「僕は街灯ですから、ここにいることだけが仕事です。寂しいと感じたことはありません」 「そう、そうなの……。私はね、どきどき寂しくて寂しくてどうしようもないときがあるの。そういうときは地上を見るようにしてる。人間たちが私を見て、きれいだって言ってくれるから。そうすると、寂しいけど、もう少しがんばろうって思えるのよ」  街灯は、自分よりもずっと年上の月のことを思った。街灯には想像がつかないほど長い間、月はずっとひとりぼっちだったのだろう。 「あなたがいてくれてよかった。ここにあなたがいてくれる限り、私は寂しくないもの」  月は小さく笑った。  そして月と街灯が出会ってから、何年も、何十年もたった。古くなってしまった街灯は、ついに撤去されることになった。  昼間のうちに撤去され、街灯は運ばれていく。空を見上げても、月の姿はなかった。  もう月にあうことは出来ない。そう思うと、街灯は生まれて初めて寂しさを覚えた。 「僕が一度も寂しいと思うことがなかったのは、あなたがいてくれたからだったんですね」  街灯は、月に感謝と別れの言葉を言った。  その言葉が月に届いたかどうかはわからないけれども。
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