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3話・旅立つ前の予備知識
女神シーラからのレクチャーを受ける為、桐生洞児は何もないところから出てきた簡素な作りをした木製の小さい机と白い羊皮紙、そして羽ペンが準備された。
「ほう、これが女神様が治める世界の筆記用具か!中世ヨーロッパ式なのだな?」
「はい……あなた方が住む世界より文明の発達はかなり遅めですが、諍いもあまりおきていない代わりに凶暴なモンスターがいますのでご注意を」
「モンスターとな!」
「はい…恐らく洞児さんでも簡単に倒せる程度だと思いますので
ちなみにこちらが、現地で主に使われている通貨と小銭袋です」
女神シーラが彼の前に出したのは、なんの生地で作られているのかは知らないが丈夫そうな皮に上だけを紐で結ばれた、片手に余る程の大きさをした鼠色の袋と銅、銀、金。そして白金色の硬貨が並べられていた。
「良いですか?まずこの銅貨一枚は日本円で言うところの10円、銀貨が100円、金貨で1000円です……最後にこの白金硬貨は10000円の価値となってますので、覚えておいて下さいね?
場合によっては硬貨ではなく、ルビーやサファイアなどの鉱物でも硬貨代わりに受け渡しが可能となりますので、その辺りの詳しい値段は現地でお尋ね下さい
言語と文字書きに関しては、こちらから洞児さんの分かるようにしましたからご心配なく!
他に何か知りたい事はないですか?」
「そうだな…知りたい事と言えば、輪廻転生ともなるとやはり赤子から始める事になるのだろうか
それに、向こうでわしはどんな生き方をすべきなのだ?」
「その事ですが、誠に申し訳ございません
実はあちら側の世界にはあなたの魂に合う個体の赤子は生まれてはいないのです
なのでこれは提案なのですが……病を患いながらも懸命に生き延びようと奮闘していた青年の魂が今、天界に還りました……
彼の体を私の祝福で満たしたならば、十分にあなたは余生を送り直す事はできるでしょう」
「それはつまり、[御魂移(みたまうつ)し]というやつか」
「はい、その通りです!それでどうしましょう?洞児さんが単身での生活を望まれるのであれば、誰とも接点もなく一人暮らしをしていた彼の住居を私の加護によって保たせておきますが?
もしも他の住人達と関わりを持ちたいのでしたら……」
「いや、試しに一人でのんびり暮らすというのを一度体験してみようと思う
お節介の癖を直せば誰にでも好かれ、楽しい日々を過ごせるのではないだろうか?」
「……そうですわね、まずはあなたの考えるままに生きてみるのが一番かも知れません
どうか、楽しい人生を送ってくださいませ!」
淡い夢だとは思う。だが、それでも体験してみたい……わしが新しき地で、一人のままでも暮らしていけるのか確かめねば。
また、急に一人きりにされた時は誰も助けてはくれないだろうからな。
彼は女神シーラの説明を聞き終えるとその場で立ち上がり、軽く体を伸ばしながら移動する準備にとりかかる。
彼が向かう新たな地では人とモンスターがお互いの生活を守ろうと命のやり取りを繰り返す、日本とは違った過酷な環境下で暮らして行く事になったのだった。
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