Sakura Decadence

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 久しぶりの勝人からの電話。美桜の中には、償いきれない罪悪感があった。芸能界の知人を通じて、勝人が地下組織Mで悪事を続けていることは耳にしていた。彼をそんな風に変えてしまったのは私だ──と、美桜は罪の意識を感じていたし、後悔もしていた。  芸能プロダクションの社長から連絡を受けたあの日、人気番組のアシスタントに抜擢してやるからという甘い誘惑に負け、社長に身体を許した。社長は美桜の身体を欲しがるだけでなく、完全に美桜を支配するため、人間関係を断つよう迫ってきた。付き合っている男がいることを知った社長は激怒し、ベッドの上で美桜と愛し合う写真を勝人に送りつけ、美桜の口から別れを告げるよう指示した。 「全部、私が悪いんだ……」  美桜の気持ちを察したように、勝人から電話があったのが昨日。事件のことを聞きつけ、心配してお見舞いに来てくれると言う。身勝手な自分を自覚してはいるけれど、美桜はタレントを辞めることと、ヨリを戻したいという願いを、勝人に伝えるつもりだった。  いつも時間にルーズだった勝人。今日も予定から随分と遅れてる。それもなんだか懐かしい。美桜は病室の窓を開け、中庭の景色を眺める。今日の風は少し強く、桜の花びらがたくさん舞っていた。  ここだ──と、小さく呟いた。病室の入り口に掲げられた〈米原美桜〉のネームプレート。それを睨みつけ、手にしたナイフに力を込める。そして心の中で叫んだ──私から社長の愛を奪った女を許さない──と。 「殺してやる殺してやる殺してやる」  わら人形を打ちつけるように呟きながら、國山泉は病室へと足を踏み入れた。
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