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Sakura Decadence
「で、それからどうなったの?」
米原美桜の友人の景子が、焼き鳥の串を頬張りながら尋ねる。
「唇にタレがついてるし」
「それはそれは、お恥ずかしいところを」
おしぼりを手に、景子が口元を拭う。
「勝人と別れたあと、偶然にも大手芸能プロダクションのS社から連絡があって、所属することになったの。夢みたいな話じゃない?」
「そういう話って、ほんとにあるんだねぇ」驚いた様子の景子が首を小刻みに振る。
「それで、今の番組のアシスタントに抜擢されて、お茶の間デビュー! って感じ」
「タレント石原雫が誕生したってわけね」
「ですです」美桜はペコリとおどけてみせた。
芸能人御用達の高級焼き鳥店に景子を招待した美桜。タレントになってからというもの、かなり羽振りがよくなった。昔からの友だちに自慢したい気持ちもあって選んだ店。予想通り、景子は入店前からワクワクしていた。
「勝人くんとは?」
「もう、連絡すら取ってない」
「要するに、捨てたってことね?」頷く景子。
「違うよッ! 恋愛に終わりはつきもの。破局は仕方がなかったんだよ」
「破局って、芸能人みたいに言わないでくださーい」
「だって芸能人だもーん」
個室の扉が開き、店員が姿を見せた。腰を屈め美桜に近づくと、店の入り口を指差しながら、美桜に耳打ちする。驚きで目を丸くした美桜は店員が退出したあと、景子の耳元で囁いた。
「俳優の中林純也が店に来たんだって」
「うそッ!? ファンなんだけど!」
「あとでサイン、もらってあげるね」
景子は顔の前で手を合わせ、ペコペコと頭を下げながら頼み込んだ。
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