Sakura Decadence

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「で、それからどうなったんだ?」 「美桜と別れてからか?」  大喜(おおき)勝人は場末のホルモン屋で友人の定春(さだはる)と飲んでいた。換気扇が故障しているらしく、店内には煙と油のにおいが充満している。客たちが吸うタバコの煙がそこに溶け入った。 「情けない話だけど、美桜と別れてからの俺は廃人のようだったよ」 「お前らしくないな」定春が言う。 「もともと、そんなに強い人間じゃないさ」  昔を懐かしむように遠い目をしながら、勝人はグラスの底に残ったビールを飲み干した。 「気づいたら今の地下組織Mに入ってて、言われるがまま、悪事に手を染めてた」 「極悪非道の地下組織Mか──」定春は吐き捨てるように呟いた。「最近じゃ警察も、Mの取り締まりに本気を出してるって話だぜ」 「あぁ。前みたいに自由に悪さができなくなったよ」 「悪さ──ねぇ」 「そういや定春の妹って、何かの事件に巻き込まれたって言ってなかったっけ?」  定春が勝人の言葉に反応した瞬間、隣の席の中年が声をかけてきた。虚ろな表情と怪しげな呂律。かなり泥酔しているようだ。 「なあ、兄ちゃんたち、Mの人間かいな?」  どうやら二人の会話を盗み聞きしていたらしい。勝人は眉間に皺を寄せ、男を睨む。別組織との抗争の際に負った額の傷が歪む。 「おお、こわぁ。そんなに睨まんでもええがな。物騒な兄ちゃんたちやで」  男は怯えた素振りを見せながらも、因縁をつけ続けた。 「Mの人間は卑劣な悪さばっかりしよるからなぁ。人間のクズじゃ。世間から消えて欲しいわ。つい先日も、えらい若い女の子が──」  勝人は「黙れ!」と凄みながら腕を伸ばし、男の胸倉を掴んだ。間に挟まれた定春が勝人を制する。 「勝人っ! 放っとけよ、こんな酔っぱらい」男の胸倉から勝人の手を強引に引き剥がす。 「悪い。ついカッとなっちまって……」 「今日はこれぐらいにしておこう。お前も随分と酔ってるみたいだし」 「そうだな。そろそろ行こうか」財布を手に立ち上がる。  乱れた服を整えながらブツブツと文句を垂れる男を尻目に、勝人は店の大将に声をかけた。
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