24人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
「で、それからどうなったんだ?」
「美桜と別れてからか?」
大喜勝人は場末のホルモン屋で友人の定春と飲んでいた。換気扇が故障しているらしく、店内には煙と油のにおいが充満している。客たちが吸うタバコの煙がそこに溶け入った。
「情けない話だけど、美桜と別れてからの俺は廃人のようだったよ」
「お前らしくないな」定春が言う。
「もともと、そんなに強い人間じゃないさ」
昔を懐かしむように遠い目をしながら、勝人はグラスの底に残ったビールを飲み干した。
「気づいたら今の地下組織Mに入ってて、言われるがまま、悪事に手を染めてた」
「極悪非道の地下組織Mか──」定春は吐き捨てるように呟いた。「最近じゃ警察も、Mの取り締まりに本気を出してるって話だぜ」
「あぁ。前みたいに自由に悪さができなくなったよ」
「悪さ──ねぇ」
「そういや定春の妹って、何かの事件に巻き込まれたって言ってなかったっけ?」
定春が勝人の言葉に反応した瞬間、隣の席の中年が声をかけてきた。虚ろな表情と怪しげな呂律。かなり泥酔しているようだ。
「なあ、兄ちゃんたち、Mの人間かいな?」
どうやら二人の会話を盗み聞きしていたらしい。勝人は眉間に皺を寄せ、男を睨む。別組織との抗争の際に負った額の傷が歪む。
「おお、こわぁ。そんなに睨まんでもええがな。物騒な兄ちゃんたちやで」
男は怯えた素振りを見せながらも、因縁をつけ続けた。
「Mの人間は卑劣な悪さばっかりしよるからなぁ。人間のクズじゃ。世間から消えて欲しいわ。つい先日も、えらい若い女の子が──」
勝人は「黙れ!」と凄みながら腕を伸ばし、男の胸倉を掴んだ。間に挟まれた定春が勝人を制する。
「勝人っ! 放っとけよ、こんな酔っぱらい」男の胸倉から勝人の手を強引に引き剥がす。
「悪い。ついカッとなっちまって……」
「今日はこれぐらいにしておこう。お前も随分と酔ってるみたいだし」
「そうだな。そろそろ行こうか」財布を手に立ち上がる。
乱れた服を整えながらブツブツと文句を垂れる男を尻目に、勝人は店の大将に声をかけた。
最初のコメントを投稿しよう!