<第一話・地獄にて、転生>

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―そうだ。今の私はカサンドラ。利明じゃないし、男でもない。……私が探し求めるべきはあの世界の姫様ではなくて……この世界の、“主様”だ。  未練タラタラになる理由などわかりきっている。何度も繰り返した転生の中で、初めて――私とあの人は、相思相愛になることができたのだ。運命の主――自分が生涯お守りし、仕えるべき存在。そんなあの人と、たった一度でも恋人のような関係になれたことは、カサンドラにとってかげがえのない幸福だったのである。  それがまさか、あんな悲惨な結末を迎えることになろうとは。あんな腐った男に、神聖なあの人の身体を辱められて――あの人を身投げするほど追い詰められることになるだなんて。一生の不覚どころか、永遠の不覚だ。あの後カサンドラ――もとい利明は憎悪のまま下衆男を切り刻んで殺し、処刑されるに至ったが。復讐を果たしても、この心が晴れることなどなかったのである。  いつも、そうだ。何度巡っても、繰り返されるのはいつだって同じ。  カサンドラは転生し、運命の主――クシルの生まれ変わりである人と巡り合う。そして、クシルが酷い死に方をするのを目にするのだ。どんな世界でも同じだった。必ずクシルはカサンドラと出会った後――二十の年を数えるより前に死ぬ。自殺で、あるいは事故で、他殺で。どの死であっても、残酷であることに変わりはない。  そして多くの場合あの人は――最期の時に、泣いているのだ。 「……しっかりするのです、カサンドラ」  ぐっと拳を握り締め――鏡の中の自分に向かって、カサンドラは呟いた。 「今度の世界こそ……あの方を救う。そう誓いを立てたはずでしょう。他ならぬ、自分自身に」  折れている暇などない。こうしている間にもタイムリミットは迫っている。  カサンドラは顔を洗うと、素早く制服に着替えた。学生寮では朝食も出る。時間に遅れたら食いっぱぐれることは間違いない。  カサンドラ・ノーチェス。それが今の、己の名前。  少女は異世界へと転生し続ける。愛する人を“殺す”者の正体を突き止め――愛しい主を救う、そのために。
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