<第二話・王国、ガーネット>

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 カサンドラが通うこのダイヤモンド・アカデミアは、ガーネット王国首都“ダイヤシティ”の、国立教育機関であった。中高一貫校であり、遠い地方からこの学園に通うため親元を離れて寮生活する者も少なくない。理由は単純明快。この学校が最も優れた、冒険者の育成と資格取得に特化した学校であるからである。無事に卒業すれば、選んだコースのジョブ資格を取得することができ、正式な冒険者として雇用主を探すことが出来るのだ。  冒険者の志望者は多い。  しかし、国や企業の募集は途切れることがない。  それはつまり、どれほど希望者が多くても慢性的に人手不足に陥っている――つまり、それほど命を落とす若者が多いということを意味していた。 ――命を落としかねない危険な仕事……。そして、同じだけ人々の役に立てる仕事……。  カサンドラは朝食を食べながら黙々と考えていた。 ――何度転生しても、あの方の根本的な性格や性質は変わらない。男になっても女になっても同じだった。ならこの世界ならきっと……あの方もまた、冒険者を志しているはずだ。  あるいは、既に旅立っているかもしれないが。高い確率で、まだそうではないだろうとも踏んでいた。今までの経験上、カサンドラとあの方の年齢が離れることはそうそうない。年が違ってもほんの少しどちらかが年上になるという程度だ。なら、彼(あるいは彼女)が飛び級でもしていない限り――まだ資格取得には至っていないことだろう。  大切なたった一人の人を守るため、異世界への転生を繰り返してきたカサンドラ。あの人の結末と、起こる出来事には一定のルールがあることもわかっている。そのうちの一つが、自分とあの人はどこかで繋がっている、ということ。不思議とあの人を見つけられない世界はなく、カサンドラがあの人を見つける前にあの人に死なれてもらうこともなかったのだ。  なら、必ずどこかで出会うことができるはず。そのためにも、カサンドラはあの人が最も選びそうな仕事に就くべく、この学校に入学を決めたのだから。 「よー、カッシー。今日も相変わらず素敵に無表情だな!」  ぽん、と肩を叩かれて振り返れば、同期の友人が立っていた。テリス・マルシエ。あっちこっち元気にハネた黒髪黒目が特徴的な少年は、明朗快活に手を上げて挨拶してきた。鉄仮面とも揶揄されるカサンドラにも気さくに話しかけてくる、入学当初からの友人である。出会ったきっかけは単純明快、たまたま入学式で隣の席に座ったから、だった。
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