<第二話・王国、ガーネット>

3/4
前へ
/328ページ
次へ
「素敵に無表情……なんか、変です」 「そうか?カッシーはせっかく可愛いんだからもっと笑ってもいいんだぜ?表情筋鍛えようぜ表情筋!あ、でもそれでモテたらちょっとムカつく気もする!!俺よりモテるようになったら許せんからな!!」 「何で貴方はそんなに女の子にモテることを気にするんですか……謎です。結婚は二十歳を過ぎないと出来ませんし、この御時世では四十代で結婚する人も珍しくはないんですよ?」  ちなみにカッシー、というのはカサンドラ、の愛称だ。自分をこう呼んでくる人間は極めて限定的ではあったが。 「年齢とカノジョいない歴が一致していたって、別にいいじゃないですか。私だって誰かとお付き合いしたことなんてないですし、あの伝説の剣士“ジャスト”さんだって独り身だったはずですよ?」  ジャスト。冒険者を志す者で、彼の名前を知らぬ者など皆無だろう。筋骨隆々、大剣豪快に振り回し、討伐が困難とされてきたドラゴン種も軽々と捩じ伏せるその様は何度も雑誌や新聞で特集されてきたものだ。彼に憧れて冒険者を志した者もきっと少なくはあるまい。恐らく、目の前にいるテリスもその一人だろう。既に五十歳間近という年齢でありながらまだまだ現役で戦い続ける生きたレジェンド。彼も確か、結婚はおろか恋人の類いもいなかったはずである。  しかし。 「ちっがーう!あの人はいんだよ、仕事が恋人だからいーの!あのなカッシー。恋人が“いない”のと、恋人を“作れない”じゃ天と地ほども差があるわけっ!?おわかり!?」  テリスには気にくわなかったらしい。くわっ!と拳を突き上げて力説して見せる彼。 「出来るけど作らない人なんぞ参考にならんのだよ!ジャストとお前はその類いなの!俺は違うの!モテたいけどモテないのっ!?この空しさわかります?顔がいいやつにはわかんねーんだろどうせ!!」 「そうですね、わかりません」 「即答!」  わかる努力もしてくれねーのかよおおお!と悶え始めるテリス。相変わらず鬱陶しい。卵焼きについていたウインナーをフォークでぶっさしながら思う。こいつのトゲトゲ頭もなかなかぶっ刺し甲斐がありそうだな、と。あまりにも食事の邪魔を続行してくれるようなら決行しようそうしよう。  というか、この男はご飯は食べ終わったのだろうか。この食堂で朝食が出る時間は限られている。早く食べなければ間違いなく食いっぱぐれてしまうのだが。 「テリス、ご飯は食べたんですか?昼まで同じ授業なのに、ずっと横でお腹鳴らされたりしたら鬱陶しいんけど」  はっきり言ってやれば、冷たい!と甲高い声が返ってくる。
/328ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加