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君がいないと
「先輩」
「なんだ」
「すいません。またこれが分からなくて」
後輩女子の酒井美梨は機械に疎く、いつも上司の伊達に相談していた。
体育会系だが理数男子の伊達は、ミスを隠すよりは良いと彼女をフォローしていた。
同僚達も明るく彼女と仕事をしていたが、ある日の仕事帰り、美梨は伊達にレストランの食事券を見せた。
「先輩。これ、いつもご迷惑をかけているので」
「気にするなと言っているだろう」
今回も派手に失敗をやらかした美梨は、どうしても受け取って欲しいと伊達に渡した。
思い詰めている彼女を見た彼は、受け取れば気が済むかと思い、この日は受け取った。
その後、返そうと思っていたが、利用日に期限があった。
これに気がついた夜、伊達は学生時代の男友達と食事の日であったのでこの店にやってきた。
「へえ、このレストラン。感じ良いな」
「そうだな」
カップルが見受けられる店。これを見た友人は今度彼女を連れてくると話していた。
これに伊達は胸が痛んだ。
月の明るい帰り道。伊達は美梨の事を考えていた。
……あの時。一緒に行こうと言うべきだったのかな。
奥手の彼は後輩の気持ちを思い、休日明けの会社で声をかけようと思っていた。
そんな月曜日。伊達は美梨が今月いっぱいで会社を辞める話を打ち明けられた。
「どうして?」
「私。パソコンはどうしても目が痛くなって」
「そうだったのか」
仕事が嫌いではないが、のんびり屋の自分はついていけないと彼女は微笑んだ。
「済まない。気がつかないで」
「そんな事ないです。伊達さんにはお世話になりました」
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