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そして肌寒くなった頃、犬の散歩のおじいさんが声をかけてきた。
「大丈夫かい?今夜は満ち潮なんだよ」
「え?」
「うわ?波がここまできてるよ」
暗くなった浜辺を二人は恐る恐る車まで戻ってきた。
「まずは車に乗って」
「砂だらけだ?うう、寒い」
海風にいた二人は、急にどっと疲れてしまった。
ここで孝宏は以前泊まった海辺のホテルに立ち寄った。
夫の勧めで彩月は温泉に入った。そして海鮮物を食べた夫婦は海の音を聞きながら一夜を過ごしたのだった。
翌朝。二人は自宅に帰ってきた。
「ただいまー。疲れた……」
「彩月。じゃあ、あの部屋はキャンセルするぞ」
「うん」
「でも、昼のパートは続けたいんだろう」
「うん」
「なあ……お前。本当にどこにもいかないんだよな?」
心配そうに顔を向けた夫に、彩月は首を傾げて見せた。
「どうかな?」
「おい!頼むよ……」
「孝ちゃん、苦しいよ?」
日曜日の部屋には優しい日差しが入っていた。
いつもの部屋に包まれた夫婦は、どこか前より強くなっていた。
静かな日曜日の窓の外は青空。
この空気を二人は大切に噛み締めていたのだった。
Fin
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