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「だって。隆明が美味しいって言うんだもの」
「そうか。だったら後でね」
清子は妹のためにこの夜、淹れ方を教えてやった。
妹は翌朝、ステンレスボトルに入れて学校に持って行ったのだった。
「ただいま」
「おかえり」
「これ。ボトル返す」
「飲んでくれたの?」
「まあね」
しかし。その後、妹は彼を家に呼ぶことはなかった。清子もこれ以上尋ねることはなかった。
やがて大学を卒業した清子は、地元の会社に就職した。女性が多い職場で異性と出会うことが少ない彼女は恋からすっかり遠ざかっていた。
そんな中、妹が先に結婚することになった。清子は結婚式に参加したのだった。
「お姉さん」
「隆明君?まあ、背が伸びて」
「ハハハ。あの時はまだお姉さんより低かったですもんね」
披露宴のパーティー会場。すっかり男らしくなった彼だったが笑顔は変わっていなかった。
「こんなに日焼けして。今でもテニスをしているの?」
「はい……覚えていてくれたんですね」
立食の席。彼は恥ずかしそうに頭をかいていた。彼は会社勤めをしている傍ら、趣味でテニスをしていると話した。
「あの。お姉さんは?その。今は一人なんですか」
「うん。すっかり爽子に先を越されちゃったの」
明るく元気な妹に比べ自分は昔から地味なので、妹が羨ましいと清子はシャンパンに任せてこぼした。隆明はじっと聞いていた。
「そんなことないですよ」
「いいのよ。本当のことだもの」
「ちょっと!二人で何を話しているの?」
ここで花嫁の妹が入ってきた。
「懐かしくてお話していただけよ」
「……お姉ちゃん。隆明はね」
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