絆創膏

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彼の鼓動も激しい。このメールをみせてくれた池田君は、すごく勇気が入ったはずだ。だって三十年経っている。その間ずっと好きだったとはさすがに思わないけれど、この未亡人という立場の私に、今になって打明けてくれた彼の気持ちを、嬉しいよりも、大切にしないといけないような気がした。 「池田君、あのね。これ、私の名刺なの……」  さっき絆創膏を持って来た時、ついでに取ってきた名刺を腰のポケットから取り出した。動き出した私の肩を、彼は自然と離し、名刺を受取ってくれた。 「よし。俺のアドレス、今送っとく」  彼がスマホを操作している。近くでみると目じりに皺があった。良く見ると、結構おじさんかもしれない。それがかえって嬉しいのは、どうしてだろう。 「あのね。その絆創膏はシャワーとかで濡らしても平気だけど、だんだん膨らんでくるからね」 「膨らむの?これ」  びっくり顔の彼。そんなに驚くことは無いと思う。思わず噴き出した私。 「そう。でも、はがしちゃダメだよ。……そうね。三日は、貼ったままにして」 「わかった。それまでに雨宮さんに相談する……っていうか。今、俺のアドレス送ったから」 「うん。部屋で見てみます」 「じゃ……お休み」 「気を付けてね」  彼は自転車にまたがると、私を振り返った。 「雨宮さん。やっぱり、帰ったら連絡する」  そういうと、軽く手を振った。腕には私の貼った大きな絆創膏があった。真夏の夜の生ぬるい風が、私に纏いつく。初恋の人が現れた夜。たぶん今夜はお酒なしでは、眠れない。                                    fin 2020・8・18
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