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やけに眩しいなと思った悠美のそばに一台の車が停車した。
「あの……もしかして悠美さん?」
「山口さん?」
「送りますよ。どうぞ」
「いいの?」
悠美は彼の運転する車の助手席に乗った。
「これは二人乗りなんですね」
「そうです。人を送るのを断るのに便利なんですよ」
彼は最近、どうしてもバスのダイヤに合わないので車で通勤していると話した。
「だから逢わないのか」
「朝も早い出勤になったから。そうだ、食事はしたんですか」
「まだです」
彼に会えずに食欲がなかった彼女に、彼はラーメン店に行かないかと誘ってきた。
「そこは女性率が高くて。でも僕も気になるんですよ」
「いいですよ。それにしても、よく私だってわかりましたね」
ここで彼は一瞬、グッとなったがアハハハと微笑んだ。
「実は毎日あそこを通るので、悠美さんがいないか確認してました」
「どうして」
「……通り道だし。それに、まあ」
歯切れの悪い彼に悠美は首を傾げていた。
「あなたもその。僕と一緒で、その、逃しているんじゃないかって」
恥ずかしそうな彼に悠美は微笑んで前を向いた。
「そうですよ?拾ってくれてありがとう……さ、なんて言うラーメン屋なの」
いつもチャンスを掴み損なっていた二人はちょっとだけ勇気を出した春の夜。
桜の揺れる幹線道路をラーメン店へと向かう二人の胸の鼓動は優しく高鳴っているのだった。
FIN
<2020・4・13>
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