401人が本棚に入れています
本棚に追加
時を逃す少女
「好きです!付き合ってください」
「え?困ったな……」
思い切って告白した相手は困ったように頭をかいていた。
「実はさ。さっき隣のクラスの女子に告白されて。付き合うって返事したんだ」
「さっき?……」
結構気持ちが通じていた気がした悠美は、こうして初恋を逃してしまった。
◇◇◇
「あ、乗ります、って」
プシューとドアが閉まり電車は行ってしまった。
……また逃しちゃったか。
いつもギリギリでチャンスを逃す事に慣れていた会社員の悠美は、この夜残業をしてラストチャンスの終電の地下鉄で帰ってきた。
……間に合うか?それ!
彼女は駆け足で最終バスをあきらめ、第二希望のタクシー乗り場に走って行った。
「はあ、はあ、はあ」
やはり間に合わず、彼女の前の人が乗り込んでスタートして行った。
外は雪が深々と降り、寂しい夜の景色であった。
ここで次に来るタクシーを待っていた彼女の後続に息を切らして走ってきた男性がいた。
……この人はバスに乗れずにここにきたんだ……
そう思った悠美はちょっと気分が良かったが、だんだん寒くなってきた。
それは多分、隣に立つ男性もそうだろうなと思っていた。
やがて遠くからタクシーの灯りが見えてきた。
彼女は気の毒な彼に思わず声をかけた。
「あの。どこまで乗りますか?」
「……僕の事ですか?」
男性は驚き顔で悠美の知っているコンビニの名をあげた。こうして二人は一緒にタクシーに乗りこんだ。
「……お仕事ですか」
「はい」
眼鏡が曇る彼とはこれで会話は終わった。そして悠美は彼よりも先にタクシーを降りた。
「これ。ここまでの料金」
「いえ?自分がここは」
最初のコメントを投稿しよう!