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プロローグ 2/2 ~sideカイル~
オレは彼を遠くから見たことがあった。
オレ達の世代の成人式典。
彼はオレを知らないだろう。
遠くで見たのは一度だけ。会話もしなかった。
なのになぜか心が揺れて、忘れられなかった。
不思議な瞳だった。
灰色なのに光の加減でピンクにも見える。
美しい顔立ちは、目が離せないほどで。
控え目に笑っただけで、周りに花が咲いた錯覚がした。
誰かが彼を「薔薇の君」と呼んだ。
大人しそうな彼は、ずっと端の方にいた。
浮かれた者たちの中、一人だけ落ち着いていて。
皇都の宮殿で、静かに目立っていた。
みんなが彼を気にしていた。
けれど彼は視線を集めている自覚がないようだった。
彼はオレの憧れだった。
再会した彼は、一見しただけで、くたびれていると分かった。
彼が並大抵ではない状況なのだと、確信した。
美しさは増していた。儚さと艶っぽさも増していた。
オレが覚悟したより何倍も、心が揺れた。
めまいがしそうな心地になった。
だからオレは確信した。
これで始まるのだと。
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