天使

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天使

 天使は神に忠実だ。どんな天使でも神を信じる者にしか手を貸さない。いや、神を信じる者にしか手を貸せない、と言った方が正しいかもしれない。それが神に仕える者としての掟。私もそんな天使の一人だった。  羽を操り、風に乗って空を飛び回る。ふと下を見れば、人間たちが過ごす街が見えた。  私は人間の生き様を見るのが好きだった。人間は魅力的だ。限られた短い一生を必死に生きる姿や、その命が散りゆく儚さがなんとも美しい。  しばらく空から街を観察した後、目に付いた大きな建物に近づく。建物の小さな窓から中を覗いてみれば、ベッドと何かの機械が置いてあるのが見えた。ベッドに横たわる人影を見つけた私は、窓をすり抜けてゆっくりと部屋に足を踏み入れた。  横たわっていた人間は、手に小さな切り傷のある青年だった。眠っているのだろうか。その目は固く閉ざされている。陽の光に照らされ、青年の黒髪はやわらかい光を帯びていた。 「…綺麗」  たった今思っていたことを呟く声が耳に届く。青年を見ると、薄く開かれたその目は静かに私のことを捕えていた。
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