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ラボの居室で目覚める。いつもと変わらない朝。
人工太陽の設定は今朝も規則正しい。
起き上がる。皮脂と雑菌を分解する光線を浴びる。身支度をする。今までと変わらない朝。私以外の人類がいない以外は、滞りなく繰り返されていく私の日々。
移民計画の唯一の欠陥。それは、すべての船を送り出す操作を、誰かが地球で行わなければいけなかったこと。
そもそも物資もエネルギーも足りていない。使える装置はすべて船に積まなければ、そもそも星までもたどり着けないかもしれない。だからそれは、人類存続のために、どうしてもそうするしかなかった。
地球に残せない制御装置の代わりに、誰かひとりが残って皆を送り出す。その「誰かひとり」が私だった。
残存していた10万人に満たない人類の中で、最も必要とされていなかったのが、私。
コロニーのシステムメンテナンスに携わる人間の中で、船団を送り出せる技術と知識を持ち、今後子供を産めるような年齢ではなく、家族やパートナーを有さない。それが私だった。
残るべきなのは私しかいない、そんなことは自分でもわかっていた。残った人類たちは、数を制限された出生のなかで生まれ、コロニーの維持のためだけに尽くすよう教育を受けて活動する。私もそうしてきたのだから、こうなることに異論はもちろん、無い。
しかし、私の前に広がる途方もない時間が、私の意志に関わらず私を圧迫している。何かをする必要がない。誰からも必要とされない。社会的な生き物である人間にとって、ただ一人生きているだけの時間は、この先私をむしばむことは確実で。
安楽死装置はあるにはあるのだが。
あるのだが。
そこに横たわる決心すら、まだ私は持てないでいる。
途方もない、これからの日々。
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