14人が本棚に入れています
本棚に追加
※
以前の私なら、決して手に取らなかっだだろう。
人類の存続のために必要な事に尽力せよ。
それが私たちのモットーだったから。
必要なことにのみ尽力し続けた。
しかし今や、人類の存続のために私ができることなど無い。
あの日、船を送り出すために制御装置のボタンを押した。
あれが、私にできた最大にして最後の貢献だった。
これから先、私が必要とされる事など、何一つとして無い。
だからもう、私は何をしてもいいのだ。
私は初めて物語を読んだ。
童話も、恋愛ものも、戦争物も、歴史ものも、手あたり次第。
私は初めて映画というものを観た。
カートゥーンも、ポルノも、アクションも、ミステリーも、思いつく限り。
人類は在ったのだ。
こんなも在ったのだなあ…。
今の私が、それらを見てどんなに心を動かされたとして、
感情を揺さぶられたとして。
そんなの何にもならない。
私の脳というタンパク質に書き込まれたただの情報で、誰にも伝えられずに、この星と一緒に消えていくものだというのに。
私をこんなに感動させた情報群も、
データとして保存されたただの情報で、私以外の誰にも伝えられずに、この星と一緒に消えていくものだというのに。
存在のその価値の、耐えられない軽さが、今ではあまり気にならない。
今、私の眼前には、モノクロのざらついた映像で、
200年以上昔に作られたニホンコロニー地区の映画が流れている。
前を合わせただけの無防備な布の服を体に巻き付けた少年が、空に繋がった糸を片手に土手の上を走っていく。
その糸は空高く、四角く切り取られた何かと繋がっている。
これは何…?
最初のコメントを投稿しよう!