ヒューストン、聞こえる?

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※ 以前の私なら、決して手に取らなかっだだろう。 人類の存続のために必要な事に尽力せよ。 それが私たちのモットーだったから。 必要なことにのみ尽力し続けた。 しかし今や、人類の存続のために私ができることなど無い。 あの日、船を送り出すために制御装置のボタンを押した。 あれが、私にできた最大にして最後の貢献だった。 これから先、私が必要とされる事など、何一つとして無い。 だからもう、私は何をしてもいいのだ。 私は初めて物語を読んだ。 童話も、恋愛ものも、戦争物も、歴史ものも、手あたり次第。 私は初めて映画というものを観た。 カートゥーンも、ポルノも、アクションも、ミステリーも、思いつく限り。 人類は在ったのだ。 こんなも在ったのだなあ…。 今の私が、それらを見てどんなに心を動かされたとして、 感情を揺さぶられたとして。 そんなの何にもならない。 私の脳というタンパク質に書き込まれたただの情報で、誰にも伝えられずに、この星と一緒に消えていくものだというのに。 私をこんなに感動させた情報群も、 データとして保存されたただの情報で、私以外の誰にも伝えられずに、この星と一緒に消えていくものだというのに。 存在のその価値の、耐えられない軽さが、今ではあまり気にならない。 今、私の眼前には、モノクロのざらついた映像で、 200年以上昔に作られたニホンコロニー地区の映画が流れている。 前を合わせただけの無防備な布の服を体に巻き付けた少年が、空に繋がった糸を片手に土手の上を走っていく。 その糸は空高く、四角く切り取られた何かと繋がっている。 これは何…?
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