コンテスト「お金がない」:ファックユー

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コンテスト「お金がない」:ファックユー

 「ファックユー……」  あたしは自分の財布の中身を見ながらそう呟く。札が抜かれているのだ。また……。  キッチンに新しいコーヒーメーカーがあったから、まさか、と思い財布を確認したらこれだ。  あたしは今から出勤なのに、一緒に暮している彼はまだ寝ている。  「ねぇ、起きてよ! 朝だよ」  祐樹は、ああ、と小さな声を出してから、寝ぼけた顔、でも笑顔で「おはよー」と言い、もうすっかり出掛ける用意ができているあたしへ近づき頭のてっぺんに軽くキスをした。  ズルい、と思う。 「そうだ。コーヒーメーカー買ったよ。梨花ちゃんが朝に美味しいコーヒーが飲めたら幸せな一日が始められるって言ってたからさ……」  やっぱりズルい。祐樹は家電大好き男だからコーヒーメーカーを買ったはず。  キッチンへ移動した祐樹は、手早く朝食を作る。アラジンというメーカーのトースターに分厚い食パンを入れて、コーヒーメーカーをオンにして、それからハムとチーズと昨夜茹でていた卵を冷蔵庫から取り出す。それから、超ふっくらなご飯が炊ける炊飯器から超ふっくらなご飯を、あたしのお弁当箱に詰めながら言う。 「だからね、今月は節約しないとで。もやしがメニューに多くなるよ。今日はビビンバ。もやし多めね。あっ、もやしってダイエット効果あるってテレビでやってたよー。まあ、梨花ちゃんは痩せなくてもいいけどね。俺そのくらいが好き」  ズルい。ズル過ぎる。  勝手にあたしの財布からお金を取らないで! 節約して頂戴! あたしはただのOL! コーヒーメーカーとかイオンが出るドライヤーとかイオンが出る空気清浄機とかめっちゃ吸引力があるハンディの掃除機とかめっちゃ高速回転の電動歯ブラシとか買わずにもやし生活をするのが正常な節約だろうがっ! と心の中では叫んでいたが、後半部分の甘い感じの言葉に、実際に伝えるのをひるむ。  「はい。どうぞ」  優しい声と共に差し出されたコーヒーを飲む。ファックユー。美味しい。  私はまた結局許してしまう。家電オタクな、いつまでたってもなんだかんだ理由をつけて働かない彼を……。
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