コンテスト「星降る夜に」

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コンテスト「星降る夜に」

午後8時。仕事帰りに、夕食の材料をコンビニで買っている間、涙をこらえていた。    仕事がうまく行かない。  思ってたのと違う。  思っていた自分とも違った。  コンビニを出て、都会の夜空を見上げる。故郷の空と比べると小さい。もうここにいたくない。上京して2ヶ月なのに。  はあ~っとため息をついて歩き始めた。春。夜の空気はまだ肌寒い。  *  歩くのを止めると涙が出そうだ。ハイヒールの足音――聞き慣れない自分の足音に耳を澄まして歩くのがやっとだ。そんなに精神的に取り乱している自分も初めてで、それにも慣れない。    コツコツと、アスファルトを打つヒールの規則正しい音の中、思い出した。沢山の記憶の中で、私を支えるであろう記憶を。  おばあちゃんが悲しいときは、夜空を見上げてごらんって言ってた。星の輝きを見ていると、自分の抱えている問題が小さく見えるようになるからって。  角を曲がり住宅街に入ると夜空はやっと暗くなり、星もいくらか輝いて見えた。その夜空を見て、寂しさで胸がいっぱいになった。  もう、この世には優しいおばあちゃんはいない。  もう、いない。もう……。  美穂なら大丈夫って言ってくれるおばあちゃんはいない。  上京する前に逝ってしまった。  想像していたよりも随分と早くあっさりと……。  しっかりと星を見つめようと立ち止まった。涙が次から次へと溢れた。後悔の涙。もっとお話をしておけばよかったという涙。もっと感謝していればよかったという涙。星の光がぼやけていく。それでも私はしっかりと星を見つめたから、まるで夜空から星が私の前に降ってきているように見えた。  涙を指先で拭い、また歩き始める。  コツコツという足音にもきっとそのうち慣れるだろう。この都会の寂しさにも慣れるだろう。大きな惑星だっていつかは終わり流れ星になるのだ。幸いの人の死だって廻りの中の変容だから仕方ないということにも、きっと慣れるだろう。  慣れなければ、星空を見つめればいい。星の輝きを、自分の存在も問題も小さいものと思えるまで、見つめればいい。  「おばあちゃん。ありがとう。頑張ってみる……」  言い終えると、また、1つ星が目の前に降ってきた。  
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