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「僕はここを故郷だとも母国だとも思えません。ウィンディア家も実家のようには思えない。でも、例えば、そうですね…居候、いえ、下宿屋とでも言うのでしょうか。愛国心なんて大層なモノはありませんけど、それなりに恩義や愛着はあるんですよ」
「なるほど。では貴方の譲れないものというのは…」
「『周りの人達』です。…なんだか、口に出すのは恥ずかしいですね。内緒にしておいてください」
断言したものの照れくさくなって、顔を隠すように紅茶を一気に飲み干した。
普段のクールでキリッとした「魔法師・ウィンディア」とは違う素の彼を見られて思わず和みそうになるが、アディは何とか堪えて今が好機と最後のひと押しをする。
「ふふ、内緒です。本当に、大切なんですね」
「はい」
「となると、妹君達が心配ですね。先日の件、関わってしまってるんでしょう?」
「そうなんですよ!止めてもドンドン突っ走って首を突っ込んで...危なっかしいったらないです」
「それは大変ですね。事が起こる前に何とかしないと。手段を選んでる場合ではありませんよ。そして利用できるものは何でも使わなきゃ。ねぇ?」
決まったセリフを読むように、アディはわざとらしい言い方をした。
彼の言いたい事に察しがついて、フィリウスはため息を吐いた。
「それは狡くないですか?」
「狡くて結構ですよ。その方が利用しやすいでしょう?」
アディは両手を広げて再度「ほら、ね?」と圧強めに笑いかけた。
「さぁどうぞ、存分に」と言わんばかりだ。
嵌められた、と気付いたが時すでに遅し。
「ですが、僕は貴方を…」
「譲れないものの話、嘘だったんですか?」
アディはフィリウスの自分を気遣うような言葉をあえた無視した。嬉しいけれど、今は必要ない。
「嘘では、ないですけど…」
「なら覚悟を決めてください」
あくまで笑みを絶やさず、アディは淡々と追い詰める。可哀想だけれど、アディも手段は選んではいられない。
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