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「大丈夫ですよ。俺、巻き込まれるわけじゃないので。それに貴方がどうしようと俺は全力で自分から関わりにいきます。それなら協力した方が良いと思いませんか?俺を案じてくださるのなら尚更」
どこかで聞いたような話だと思った。
そうだ、妹達から聞いた「軍本部でレディ・リリサがマトリーズ大尉をやり込めた手口」と似ている。
自分自身を人質にするような、狡いやり口だ。
貴族の常套手段なのだろうか。
そんなの、元平民のフィリウスが勝てる訳がない。
「やはり狡いですね。そこまで言われたら頷くしかないじゃないですか」
非難しながらも、自分のために悪役のような事までしてくれたアディに感謝と申し訳なさと、心強さすら感じた。
こうなっては何がなんでもやるしかない。
フィリウスはやっと覚悟を決めた。
事の真相を暴くことも、アディを守ることも。
「ふふ、すみません。でも貴方がやさしいからできたんです」
「それはつけこまれる隙になる、ということですか」
「そうですね。いつかそれが仇になるかもしれません。でも俺は貴方のそういう所、良いと思いますよ。あ、前に言ってくれた言葉をお返ししますね。『貴方はそのままでいてください』」
「それは...改めて聞くとやはり恥ずかしいですね」
「そうですか?俺はもう何か吹っ切れましたよ」
「早いですね?!」
「その方が楽ですしね。さて、そろそろ本題に入りたいところですが...ディナーのお誘いをしても?」
言われて時計を見るともう夜と呼べる時間だった。
アディと食事をする事に否はないが、やはり貴族の晩餐会というのはまだ慣れない。
「え、あ、はい」
フィリウスがあからさまに強ばって緊張した表情で返事をすると、アディは思わず「ふふ」と笑い声を漏らした。
「え?」
「あぁ、すみません。学食、まだやってますよ」
「学食...?あっ!そ、そうですよね、学食...」
晩餐会などと勝手に勘違いをした事に気付き、恥ずかしくて死にそうな気分になった。
やはりまだ貴族には慣れそうにない。
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