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学食へと移動した2人は手軽なサンドウィッチとスープを注文し、片隅の長机に向かい合わせに座った。
この時間ともなると生徒達は殆ど残っておらず、学食には誰もいない。内緒話には好都合だ。
「全部話せとは言いません。レディ・リリサやマトリーズ大尉の事情もあるでしょうし、話せる範囲で構いませんよ」
ニコリと話を促せば、フィリウスも意志を固めてしっかり頷いた。
「…先日の平民街での噴水事故はご存知ですか?」
「噴水ですか?」
アディは「何だそれ」とでも言いたげな顔をした。確かにここだけ聞くと意味が分からない。
「とあるバーの地下水脈が暴走したらしいんです。当然、店は大破。怪我人がいなかったのは幸いです」
「へぇ、そんな事が…あ、もしかして平民街に行ったのって...」
「はい。レディ・リリサがどうしても行きたいと。その時にそのバーの近くの店に入ったのですが、そこの客から妙な話を聞いたんです」
「妙な話?」
「えぇ。なんでも、そのバーには長年『開かずの扉』と言われる扉があって、どうやっても開かない、と。物理はもちろん、魔法でもダメで、平民だけでなく魔法師も何人か挑んだようですが歯が立たないそうです。ここまでくると、これはもう特殊な魔法、つまり封印魔法が掛けられているに違いない、とそんな話でした。しかもその『開かずの扉』はまだ残っているようなんです」
「店は噴水で大破したのに、ですか?」
「えぇ。扉とその『向こう側の何か』だけ残ったんだと思います。店のあった場所に小さな小屋が建てられていたので、おそらくその中に。ただ軍人が見張っていて近付けなかったので詳しくは分かりません」
「王国軍が…なるほど。あ、スープ冷めちゃいますよ。頂きましょう」
アディはカロリー摂取をしながら、フィリウスから聞いた事と今までの断片的な情報を記憶の引き出しから探して整理整頓した。
話すつもりだった事の半分ほどしかまだ伝えていないが、彼には十分だったのだろう。
フィリウスもアディを待ちながら食事に手を付けた。
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