22.エピローグ

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「ママに似てるからって娘に惚れるなよ」 そう言いながら僕の腕をさらに強く掴んだ。 「なに馬鹿なこと言ってるんだ」 ちくしょう!  憎たらしいほどそっくりだ。 「おい、苦しいよ」 でも遥芽は黙ったまま僕の腕を強く掴んで離さない。 「遥芽、どうした?」 「ずっと一緒にいたい・・・」  ――え? 涼芽の声。 涼芽の言葉。 いや、そんな筈はない。 僕は思わず遥芽の顔を見た。 遥芽も僕の顔をじっと見つめている。 体中の血が固まったような気がした。  ――まさか涼芽? 遥芽の口元が悪戯っぽくニッと緩む。 「フフ、これさ、プロポーズの言葉でしょ? 小さい時、ママから聞いたんだ」 遥芽がドヤ顔で笑う。 固まった血が体中にどっと流れ出した。 「びっくりさせないでくれよ!」 スズカの魂が降りてきて遥芽に乗り移ったのではないかと、一瞬でも本気で思ってしまった自分に苦笑する。 「でも、いつ聞いたんだ? それ」 「ママが死んじゃうちょっと前だったから、一年生のころかなあ。海岸の花火大会で言ったんでしょ?」 「そこまで聞いたんだ」 「うん。でもこのセリフ、どっちが言ったの?」 「それは聞いてないのか?」 「ママ、教えてくれなかったんだよね」 「じゃあ、パパも教えられないなあ・・・」 「え? ずるい、教えてよ!」 ふて腐れた顔がまた涼芽にそっくりだ。 「実はさ・・・」 「うん?」 「忘れちゃったよ・・・」 遥芽はハアっと吹き飛ばされそうなくらい大きなため息をついた。 「君はどうしてそんな見え透いた嘘を堂々と言えるんだ?」 生意気なその言い方に僕は思わず噴き出した。 本当に涼芽そっくりだ。 「ねえ、お腹すいたよ。タコ焼き食べたくなっちゃった。帰りに食べて行こうよ」 とても懐かしい感じがした。 そうだ。スズカもタコ焼きが好きだったっけ・・・。 「これもDNAかな?」 思わず口に出た言葉にあっと思う。 「何それ?」 「何でもないよ。そう言えば知ってるか? タコ焼きって親しくなった カップルが一緒に食べるものらしいぞ」 遥芽はくりっとした丸い目を細めながら僕を見た。 「聞いたことないよ。誰が言ったの?」 「ママがそう言ってたんだよ」 遥芽は驚いたような顔をして僕の顔を覗き込む。 「ママ、いつそんなこと言ったの?」 「うーん。確か高校の時だったかな。パパとママがまだ付き合う前の話だけどね」 「もしかして、ママはそう言いながらパパにタコ焼きを買ってきたとか?」 何が面白かったのか興味津々の顔で食らいついてきた。 「そうだけど・・・」 「それって、もしかしてパパへのアプローチだったんじゃないの?」 「え? どういう意味だ?」 それを聞いた遥芽はガックリと肩を落とした。 「パパさあ、モテなかったでしょ!」 この娘は何を言う! まあ確かにその通りだが。 「まあね」 僕は意地を張って偉そうに頷いた。 「そこ、威張るとこじゃないと思うけど」 遥芽は呆れながらおでこに手をやった。 「パパ、よかったね。ママと結婚できて」 娘に慰められるようになったらおしまいだな ・・・なんて思いながらも、なぜか嬉しい。 「ああ、とっても感謝してるよ。ママと出逢えたこと。そして遥芽と逢えたことも」 「おお、パパかっくいいじゃん」 「親をからかうなよ」 照れ臭くなった僕は思わず目を逸らした。 「からかってないよ。ホントにカッコよかったよ」 遥芽はそう言いながらまた僕の腕をギュッと掴んだ。 その腕の痛みが妙に懐かしくて心地よかった。 遥芽のすぐ横でスズカが笑っていた。 あの時と同じ眩しい笑顔だ。 「ありがとう、スズカ。これからもずっと一緒だ」            ~  完  ~
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