21.最後の告白

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「あの・・・違った?」 もう勘弁して欲しい。 「誤魔化してもだめだよ。今、『葵』って言ったでしょ。さっきは名前で呼んでくれたよ」 夢中だったので覚えていないけど、どうやら彼女を名前で呼んでたらしい。 「はい、もう一度」 彼女からの容赦ない追い込みは続いた。 彼女と出逢ってから僕が手に入れたもの。 それは開き直りという無責任さだ。 僕はさらに大きく息を吸い込む。 「スズカのことが好きだ!」 穴があったら入りたいくらい恥ずかしかった。 彼女は照れながら目を細めて僕を見ていた。 そしてスッと身体を僕から背けて空を見上げた。 「私も大好きだよ。ハルのこと」 ――え? 今、僕のことを好きって言った? 「あ、あの・・・」 僕は驚きと嬉しさのあまり言葉に詰まった。 彼女の顔をそっと覗き込む。 その顔は真っ赤に染まっていた。 「ちょっと何見てんのよ!」 見たこともないような恥ずかしそうな彼女の表情だった。 こんな仕草をする彼女は初めてだ。 「何よ。しょうがないでしょ。私はリハーサ ル無しでぶっつけ本番だったんだから」 ――ぶっつけ本番? 恥ずかしそうに俯く彼女がとても愛おしく感じられた。 「空、真っ青だね・・・」 「うん。前にスズカと一緒に来た時と同じだね」 「ああ、花火の季節、終わっちゃったな・・・」 彼女が寂しそうに俯く。 「花火大会は来年もその後もずっとあるよ」 そう。僕たち二人の時間はまだずっと続くんだ。 「ハル」 彼女がぽつりと呟く。 「何?」 「私もハルとずっと一緒にいたい」 彼女が嬉しそうに笑った。 僕は照れ臭くなり思わず顔を背けた。 彼女の笑顔がとても眩しかった。 「ねえ、タコ焼き食べたくなった」 「タコ焼き、売ってなかったんでしょ」 「じゃあ、一緒に捜しに行こ!」 彼女は僕の手をぎゅっと握ると坂道を強引に登り始めた。 「ちょっと痛いよ」 でも、その腕の痛さが妙に心地いい。 これからはずっと二人で同じ景色を見ていきたい。 身体に受ける海風の冷たさと彼女の手の暖かさのコントラストが気持ちよかった。
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