003 終わりに

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003 終わりに

「それで、どうなったんだ」 「彼女は、脳を焼かれて人間としての尊厳を失ったのち、自我を失うものの、体は死ぬことがなく、今も絶えず生き延びているとかなんとか。それで、ここがその跡地なんじゃないかっていう噂なのです」 「……」 何も言えなかった。というか、何も言いたくなかった。 「『方城七伝』の中には、その敬意を表して、『ねずみ姫』と名付けているのです」 「……」 「どう、かな。確かにむごい話ではあった。ごめんね、先に言えばよかった」 「いや、そんなことは」 「でもね、君には伝えておきたかったの」 「……どうして?」 「これはね、方城高校に命を預けた人たちの伝記だから。もしかしたら、女神探しのヒントになるんじゃないかなって思ったの」 「そういうことか」 「なので、これからこれが本当にあったことなのか調査したいのです」 「わかったよ。一緒にやろう」 「よしっ」 それから、3時間くらいが経っただろうか。掘り続けた穴は、ようやく固い何かまで到達した。 「……これは」 「箱?」 辺りはすっかり暗くなり、街灯もないエリアだったので、僕たちは急いで灯のあるほうへ向かった。 「そうだ、私んち近いから部屋で見よっか」 「おっけー、分かった……って、いいのか?」 「いいよいいよ、それくらい。それとも何? もしかして、意識してくれちゃってるの?」 「そりゃあまあ、一応女の子なんですから。それに、かわいいし」 「……え?」 「へ?」 「今の、もっかい」 「いやだから、女の子なんだか」「そこじゃなくて」 「……言わなきゃいかんか?」「そうですね」 「……かわいいから」「ありがとうございます」 そんなやりとりをした後、彼女の家にお邪魔させてもらうと、「あら、いらっしゃい。なーに? もしかして、彼氏?」とお母さまがお見えになった。 「違うよ、ただの友達」 「へえ、あやしい」 どこのお母さんもそうなのか? 「じゃあ、私たちちょっと用があるから、お母さん自分の部屋行ってて」 「はいはい、分かりましたよ」 お母さまが部屋を出た後、彼女が発した言葉の数々は、まあ言わないでおこう。彼女もまた調子に乗ってやりすぎたということだろうし。 それではわからないというのであれば、一つだけヒントを差し上げよう。 部屋で二人きりになったら、興奮しちゃって、以下略。 「さて、あの箱を開けましょうか」 「……そうだな」 開けた箱の中に入っていたのは、手紙だった。 「……誰の手紙なんだろ」 裏返した瞬間、正直言って鳥肌が立った。しかしそれは、恐怖ではなく好奇心の方で、僕は鼻息を荒くしてその手紙を開いた。 「……これは」 それは、財部妃花(たからべ ひめか)さんが書いたものだった。 『あなたがこれを読んでいるということは、私の自我はこの世にないでしょう。ただまあ、少しでもほかの人の役に立てていれば幸いです。 ここに書き残すことは、大きく3つあります。 一つ目は、この研究所について。これは、拷問を強いられながら断片的に聞いたことなので、定かではありませんが、この研究所はいずれ学校になるそうです。それも、エリートを集める秀才校とするそうです。まあ、私がここで処分されれば、ほかのところに移転するでしょうけど。とりあえずは、そういうことのようです。 二つ目は、お母さん——の妹さんについてです。私は、物心つく前にお母さんを失い、代わりに妹さんが世話してくれていたことを知っています。どうして黙っていたかというと、まあ、私にとってどちらが親でも構わなかったということだと思います。精一杯産んでくれたお母さんも、精一杯育ててくれた妹さんも、感謝してもしきれませんから。 最後に、お父さん。いっぱい愛してくれてありがとう。もしも、私の体が使ってもらえるなら、お父さんのおなかの傷に使ってほしいな。 いっぱい言いたいことはあるけれど、時間もないのでこれで最後にします。 私は、苦しい思いをしています。でも、それはみんなのためなのです。そういうことなら、私はどんなことになってもいいと思っています。 でもやっぱり、死にたくないな』
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