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驚きを隠せなものの、気を取り直して話を探ってみる。
「その人と風乃は、接点とかあるの?」
「ないよ」
「え?」
「ないよ」
「……」
「じゃ、その人の名前は知ってる?」
「えーと、なんだったかな。たち…川だったような、たちばなだったような」
「…下の名前は?」
「知らない」
………マジか。
少し人見知り気味な風乃のことなので、二言三言会話した程度の仲だと思っていたが、想像を遥かに下回っていた。
これじゃあ人見知りではなくコミュ症だろう。
いや、でも、まだ気になって数日とかなのかもしれない。ほら、夏季講習で一緒になったとか。
「ちなみに、その人はいつから気になってたの?」
「入学してからずっと?」
「……」
急に黙り出した私を不審に思ったのか、風乃は首を傾げる。
「月乃?」
「……話を変わるけどさ」
「うん」
「大学入学してから、友達とか、できた?」
「ぇっ…そんなの」
口ごもる風乃を前に、私は一番最悪な答えが帰ってこないことを祈った。
「あるに決まってるでしょ?
そこまで私のことコミュ症扱いしていると、お姉ちゃん怒っちゃうぞ」
コツン、と軽い調子で私の頭を叩く風乃。
よかった、孤立していないみたいで。
おかしそうに笑う風乃につられて私も笑う。
ふと時計を見ると、もう10時だった。さっさとお風呂に入って寝てしまおう。
夏休みとはいえ、夜更かしは禁物だ。
「じゃ、また明日ね。もう徹夜はしちゃダメだからね」
「そーね、出来るだけ頑張ってみる」
どっちつかずのの風乃らしい答えを聞きながら、私はお風呂場へ直行した。
浴槽の中で考える。風乃に好きな人がいたとは手っ取り早い。
せっかく考えた計画が徒労に終わったのは残念だったが、風乃の容姿なら話したことがないなら、成功率はかなり高いだろう。
風乃とその人が付き合ったら、今度充とダブルデートしてみたいな。
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