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二人の馴れ初めであるが、実に奇妙なもの。農民Aが針葉樹の森へと焚き木を刈りに出たところ、Yの字を描いたような二股の木に手を挟まれた女性を見つけ、助けたことである。
この時の農民Aは今とは違い、豪農と呼ばれる程の立場で農場地帯の長と呼ばれていた。
冷たく輝くダイヤモンドダストが踊り降り注ぐ中、農民Aは女の声を聞いた。どうしたのだろうと声の方向へと向かうと、そこには二股の木の間に手首を挟めた女がいた。女の挟めた手首は何度も引き抜こうとしたのか真紅の腕輪を装着するに至っていた。
これはいけない。農民Aは焚き木を刈るための鉈で二股の木の上方を切り落とし、女を自由にした。女は痛めた手首を押さえながら蹲った。
「これ、つかうといい」
農民Aは手拭いを女に差し出した。女は手拭いを手首に巻こうとするが、この寒さで真紅の腕輪は激しい痛みを持ち、指先も悴んでいるために手拭いを巻くに至らない。
「しかたねえな」
農民Aは手拭いを女の手首にしっかりと巻いた。手拭いが彼女の血で真っ赤に染まり、雪のように真白い手脱いが真っ赤に染まっていく。傷口を塞いでいることで痛みが和らいでいくのか、苦痛に歪んだ顔も徐々に柔和なものとなっていく。
「ありがとうございました。この御恩は一生忘れません」
「いや、困った時は助け合うのが人間だ。ところで、あんたなんでこんなところにいたんだ」
「実は……」
女は俯きながら二股の木に手首が挟まっていた理由を話し始めた。前にいた家の主人に訳も分からずに手を引かれ、手首を二股の木に突っ込まれて動けなくされ、そのまま放置されたとのことであった。
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