お金は無いけど、愛はある

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農民Aは不毛の大地に舞い降りた女神を愛でるかのように女を愛した。女もその愛に応えるために一生懸命に農場の仕事を手伝う。農場地帯(コルホーズ)の農民たちも「やっと豪農様にも春が来た」と、彼らを祝福した。 ただ、もう一人の豪農…… ライバル関係にある農民Б(ブ)だけは「どうしてあんな奴にあんなに美しい嫁さんが!」と、激しく嫉妬の炎を燃やすのであった。その豪農の嫁はヘパイストスを女体化したような醜女、農場の仕事も寒さに負けず嫌な顔一つせずに手伝ってくれる良妻であったが、顔の問題もあり、愛は一切無かった。常日頃考えることは「Aの嫁が欲しい! こんなのいらんわ!」であった。 農民Aに変化が訪れる。大麦小麦は寒さで枯れだし、野菜も極寒の大地で逞しく生きる(けだもの)共の腹の中へと消えてしまうようになった。 畜産業も上手く行かない、鶏も十日に一度しか卵を産まず、乳牛の乳の出も悪く一日にミルク缶の底が透けて見える程度の量しか出さなくなってしまった。 嫁を娶ってからいきなり農民Aに大恐慌とも呼べる不作が訪れてしまった。それに伴い、家はみるみるうちに貧乏になっていく、最低限の農具だけを残して、大半の農具を質に流し、乳牛や鶏さえも自分達が食べる食肉に回し、ミンク製の帽子(ウシャンカ)すらも、質に流さなければならないぐらいの貧乏生活へと陥ってしまった。 農民Aは折角嫁に来てくれたのにこんな貧乏生活をさせて済まないと謝るが、嫁は気にせずにいつもニコニコとし、美しい笑顔を絶やさない。 その笑顔があるから、農民Aは金がない貧乏生活に耐えることが出来るのであった。
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