お金は無いけど、愛はある

5/11
前へ
/11ページ
次へ
農民Aが没落したことで、農民Бは農場地帯(コルホーズ)の唯一の頂点(トップ)の座が転がり込んできた。地元の名士と言っても良い。今まで二分していた豪農としての権力が一極集中化したことで農民Бは傲慢な性格となり、土地の取り上げ、農作物の取り上げ、我田引水…… 権力を使ってやりたい放題である。 そんな農民Бが求めたのは農民Aの妻であった。あんな貧乏農家にあんな美しい嫁は勿体ない。俺の嫁にするべきだ。農民Бは農民Aの妻に求婚する。 「Aを捨てろ! 俺の妻となれ!」 「嫌です」 「どうしてだ!」 「私の夫はAのみ、A以外の男を愛するなどとは考えられません」 農民Бの傲慢なプロポーズは無碍に断られてしまった。しかし、農民Бは諦めない。欲しい物があるなら奪えばいい。力こそが正義、今の俺にはそれだけの権力がある。 農民Бは町のごろつき達を雇い、夜のうちに農民Aの家に踏み込ませた。彼は隣で眠る妻の悲鳴で目を覚ます。ごろつき達は農民Aの妻を強引に攫おうとしたところを見つかってしまった。農民Aは妻を連れ去ろうとするごろつきに向かって拳を向けた 「チッ! 気づかれたか」 「殺るぞ」 農民Aはごろつき達に床に叩きつけられ、そのまま袋叩きに遭う。 「あなた!」 踏みつけからの蹴り飛ばし、鈍器での殴打、気を失いたくとも寒さと痛みでそれも許されない、愛する夫に与えられる蹂躙を見せつけられた妻は思わずに目を塞ぐ。 「ちょっと、死んだらヤバいですよ」 「いいんじゃないか? 俺らが言われたのはこの美人の奥さん拉致(さら)ってこいって言われただけだ。それにこいつだって抵抗したんだから、正当防衛だ。気にするこたぁねぇ」 ごろつきは妻を連れて農民Бの屋敷へと凱旋してしまった。 それを黙って殴られて見ることしか出来なかった農民Aは殴られ腫れ上がった目に関わらず涙を流す、涙に血が混じり激しい痛みを伴おうとも泣かずにはいられない。閉じた瞼の裏には妻の美しい笑顔、奪われたそれをもう見ることは叶わない。農民Aは満身創痍の中、妻の思い出が残る農場地帯(コルホーズ)にはいられないとし、流浪の旅に出るのであった……
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加