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そして辿り着いたは別の農場地帯、自分は兵隊になれるような腕力も無ければ役人になれるような頭の良さもない、自分には農業しかないとして、雇われ農夫として、老夫婦の営む小さな農家に住み込みで働くことにしたのだった。
その途端、小さな農家は急成長を遂げる。農民Aのかつての農業経験を活かしての農地改革、農作物の見直し、畜産方法の抜本的な見直しを行ったことにより、農場地帯一番の農家となり、豪農の地位を手に入れるに至ったのである。
農民Aは老夫婦を本当の親のように愛し、老夫婦も本当の息子のように農民Aを愛した。老夫婦は「お前もいいお嫁さんをもらわないとねえ」と、心配するが、農民Aはこの手の話になると適当に笑って誤魔化すのであった……
老夫婦はいくつか見合い話を持ってくるのだが、いずれも無碍に断ってしまう。理由を聞いてみれば、忘れられない女性がいるとのこと。それを不条理で失ったことを聞いて老夫婦は我がことのように悲しみ涙を流した。
「人はね、忘れることで生きていけるんだよ」
「父さん…… 母さん……」
農民Aは妻を忘れて生きていくことを誓い、前へと踏み出す決意をしたのであった。
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