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お金は無いけど、愛はある
貧乏神と言う神様をご存知だろうか。
取り憑いた人間やその家族を不幸にする神様である。
主に、日本各地の童話や民間伝承などにその名が見られ、
その姿は痩せこけて薄汚れた老人の風体をしているのである。
だが、非常にマイナーではあるが、海外にも貧乏神と呼ばれる神様がいる。
ここは骨も凍りつくような極寒の大地、シベリア。数え切れぬ程の針葉樹を切り分けての開拓が行われ作られた農場地帯があった。
極寒の大地に作られた農作物の育ちは悪い。農耕の女神デメテルが一年中、娘を冥界へと送り悲しみに暮れているようなものである。
それでも農場地帯の農民たちは力を合わせ、農作物をどうにか作り上げて細々と暮らしていた。
その中でも特に貧乏な農民A(ア)がいた。日当たりが良く、一番広い土地を持っているはずなのに、農業は上手くいかない…… 大麦小麦は寒さで枯れることも珍しくない、野菜も極寒の大地で逞しく生きる獣共の腹の中へと消えてしまう。
畜産業も上手く行かない、鶏も十日に一度しか卵を産まず、乳牛の乳の出も悪く一日にミルク缶の底が透けて見える程度の量しか出さない。
このような状態では農家としての生業は厳しいものである。厳しい生活ではあるが貧乏な農民Aは幸せを感じていた。
なぜなら、三千世界全てを探しても見つからないような美しい妻がいたからである。その姿、近世ルネッサンス期の絵画『レダと白鳥』のレダがそのまま絵から抜け出たような美しさ。
彫りが深く整った広い額を持った顔立ち、膝の裏まで届くような長さの太陽を思わせる輝きを持つ髪、体つきは大きな臀部に豊満な胸、透き通るような白い肌。最高の女性の肉体美がそこにあった。
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