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春風は牛乳瓶の底から 1  指定されたラジオ局に約束どおりの時刻に着いた。  ラジオ局と言ってもそれは駅前のマンションの一室を改装したものだった。奥の部屋をスタジオに、手前の部屋を事務所兼打ち合わせスペースに分けて使っている。  小さな応接ソファーにかわいらしい小さなヒマワリの花が生けてある。  スタッフは2人だけらしく、男性スタッフとパーソナリティと思しき女性。二人が営業スマイルでオレを出迎えた。  地元コミュニティFM局のインタビュー番組の事前の打ち合わせ。  正直、オレは地元のコミュニティFM局というものがあることすら知らなかった。地域限定の情報を提供するためのラジオ局というものが最近はあちらこちらででき始めているらしい。  一ヶ月前のある日のこと。  会社に電話があった。  地元で活躍する方々を紹介するラジオ番組なんですが、出演していただけませんでしょうか。 『地元のサラリーマンの食欲を満たす優良企業』などという表現でうちの会社のことを紹介されると、社長としては思わずお世辞にも乗りたくなる。『弁当屋』とか『総菜屋』なんていわれるよりずっと響きがいい。それに打ち合わせ1回、収録1回きりの仕事だという。物見遊山の気分で承諾した。  早速、二人と名刺交換。  40歳代と思しき男性はそのFM局の社長とのこと。  女性のほうも同年代か。パーソナリティらしい。オレは「ウメダフーズの梅田です」と女性の方にも丁重に名刺を差し出す。これまで千回以上繰り返してきた所作だ。  女性が名刺を差し出しながら意味ありげな笑顔をオレに向けてくる。  どこかであったかな?と思いながら名刺を確認。 「FM△△ 柏崎由紀」とある。  由紀? ユキ?  顔を上げてもう一度目の前の笑顔を見る。  満面の笑顔だ。  っ!!  オレは腰が抜けそうになった。  そこにいたのは確かにユキだった。  およそ30年間という年月がオレの記憶を霞の向こうへと押しやっていたが、記憶の糸を手繰り寄せるのに時間はかからなかった。  目の前にいるのは間違えなくユキだった。 「おひさしぶり」  この声。  それに満開の花が咲き誇ったような笑顔。  あの時と変わらない。30年前のあの声にあの笑顔だ。 「久しぶり。ここで働いているんだね」 といかにも気の利かないあいさつをするオレ。  動揺が全身に渡り、うまいあいさつが出てこない。  ユキの横では社長が、あれ?知り合い?みたいな顔でオレ達を交互に見ている。  
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