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が、ジイさんは腕組みを解かない。仕方ないので、顔をあげた。うわぁー! やっぱり鬼瓦だ。見なきゃ良かった。それにしてもなんでよ? 何か悪いことした? と思っていると、
「おそい!」
と天を破るような声が脳天から踵へと突き抜ける。鼓膜にキーンときた。朝っぱらだ。
あんたとは初対面なのに、なんでそんなに怒鳴るの?
親からもそんなに怒鳴られたことはない。オレの腹と膝の力がどこかへすっとんでいった。
しばらくオレは、アウアウと声にならない声を出していたような気がする。ビビッってしまって、立っているのがやっとだったのだ。
ジイサンから目線をはずし、半歩後ずさりしながら、一・二・三と呼吸を整える。かろうじて、
「い、いつもどおりの時間っすけど…」
と言った。なんとか言うことができた。それだけ言えたら、努力賞だと思った。
でもやっぱり喉に力が入っていないので、情けないほど小さな声だ。だが、実際のところ遅れてなんかいない。いつもと同じ時刻に牛乳やヨーグルトを荷台に積んで、一丁目から配り始め、二丁目、三丁目と行き、なんのトラブルもなく四丁目まできたのだ。残りの牛乳とヨーグルトの数だってぴったり合っている。
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