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 ジイさんは止めを刺すように説教を垂れた。  朝めしのパンに牛乳がないとダメだとか、ラジオ体操の時間までに食べ終らないとか、そんなことを捲くし立てた。  オレの頭の上をジイさんの言葉が次々と飛んでいく。「喧嘩は先手必勝」みたいな上から叩き下ろす言い方だ。  オレは亀みたいに頭を引っ込め、それをやり過ごす。  このジイさん、マジで元軍曹だろ?  軍隊と戦うのはさすがに勘弁だよぉと思っていると、ジイさん、少しは怒りが収まったのか、それともオレのうろたえた姿を見て、気の毒だと思ったのか、 「とにかく明日から五時半までに持ってきてくれ。いいな!」 と言う。一方的ではあるものの、なぜか最後のセリフはちょっと遠慮の色が混じっていた。  何なんだ、このジイさん、配達には順番ってモノがあるんだよ。こっちが高校生だからって馬鹿にしてんな。  と思うが、それは顔には出さない。 「店に相談してみます」と逃げた。  店に戻りオジさんに相談すると、眉毛をひしゃげて困った顔をしている。  店のオジさんはおとなしい人で、奥さんにも全然頭があがらない。アルバイトのオレにも強くは言えない性格だ。客が減るのは困るなあという顔で、 「ウメダくぅん、じゃ、四丁目から配れる?」 と森永乳業の紺の前掛けをくしゃくしゃに揉んでいる。  困ったときはいつもそうだ。  俺の家も牛乳屋も一丁目にある。四丁目から配るとなると走行距離のロスが大きい。が、やってやれないこともない。 「まあ、やろうと思えば…」 そういうオレもどちらかというと言いたいことが言えないタイプだ。内心、ちぇっ、仕方ねぇなあと舌打ちしたが、それは顔に出さずにすぐに折れた。    翌朝、やはり金丸のジイさんが待ち構えていた。 「おはようございます」と昨日のことは忘れたような顔をつくった。牛乳とヨーグルトを荷台から取り出し、なるべく目を合わせないようにして渡した。ジイサンは受け取りながら、「うむ」と頷く。 「この次に配るのは中学校前の中井さんの家だな?」  昨日の恫喝とは打って変わって、口の中に饅頭でも入っているのかと思うようにモゴモゴした言い方だ。 「そうですけど。今日から四丁目から配ることにしたので、次は中井さんのお宅になります」  それを聞いてジイさんは満足そうにうなずいた。
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