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5  ある昼休み、私はまたカオリに愚痴っていた。 「なんか、合唱部もイマイチなんだよねぇ。そう思わない?」  歌うことは好きだ。カオリの部屋で、二人だけでラジカセからお気に入りの歌を流して、自前のカラオケをやったりするのは楽しい。二人ともロック調のノリのよい曲が好きで、今の私の十八番は渡辺美里のMy Revolutionで、カオリはレベッカばかり歌っている。ラズベリー・ドリームが特にお気に入りだ。 「たしかに。なんかうちの部って、みんな、いつも腹の探り合いやってる感じだもんね」  いくら歌うことが好きでも、女子ばかり二十人余りの合唱部での人間関係は難しい。当然のように仲良しグループの派閥があり、日々、微妙な闘争を繰り広げている。 「先輩達も頼りないしねぇ…」  合唱部は一年生が八人で、二年生が十一人。三年生は三人しかいない。三人ともいるかいないか分からないくらいおとなしい。 「うちの部の一年はかわいそうだよ。どの二年のグループからも睨まれないようにって、いっつもおどおどしながら、私たちの顔色伺ってるもん」  二年のグループ同士でも、今日仲良くなったと思えば、翌日には互いにいがみあっているようなこともある。  一年はその様子を怯えるような目つきで観察している。  合唱部全体がやじろべえのように、微妙なバランスのうえで揺れているのだ。 「特に一年の子たちは毎日、シホの発言にピリピリして大変らしいよ。『一年ネットワーク』でシホが何をしゃべっていたかその日のうちに全員に伝わるんだって」とカオリ。  部の中で最も発言力があるのが二年のシホだ。シホは見た目の派手さはないが、目立ちたがり屋で言葉に勢いがある。浅黒い肌が余計にその勢いに拍車をかける。どこに出ても気後れしない性質なので、周りの女子たちをたちまち飲み込んでしまう。 「最近のシホって、さらにきつくなったからね」  私は顔をしかめる。
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