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2      二年生に進級するクラス替えでタカギと同じクラスになったのが全ての始まりだ。  当時、オレは絵を描くことに夢中だった。小さな頃から暇さえあれば絵を描いていた。絵の中の世界が出来上がるに連れて、自分の心が絵の中に溶け込んでいく感じがたまらなく好きだった。小六の誕生日におじいちゃんからホルベイン製の絵の具と筆をプレゼントされたとき、将来、絵描きになるという夢がぼんやりと浮かんできた。   中三の夏の絵画コンクールで、「羽ばたく町と沈む町」というタイトルで、未来都市の想像画を描き、市長賞をもらった。夢の輪郭が鮮明になった。  高二になり、新学期が始まって間もなくの日だった。  タカギがオレに近づいてきた。プライドの高いヤツにしては珍しく媚びるような目をしている。 「ウメダぁ、またバンド組もうぜ」  タカギは軽音楽部でギターの実力を認められ、入学早々、三年生のグループに引っ張り込まれた。その先輩たちが卒業してしまったので、バンド仲間を探していたのだ。  オレとタカギとは同じ中学校出身で、中学三年の時、音楽クラブでいっしょだった。 クラブといっても週に一回活動するだけのお慰みのクラブだ。それでも「卒業演芸会」で即席のバンドのようのものを結成し、三年生の学年集会でステージに上がった。タカギは兄貴からギターの手ほどきを受けており、中学生離れしたテクニックで周囲の関心を一心に集めていた。オレもC、D、G、Emの四つのコードをなんとか覚えた。ギターは音楽室からの借り物だった。 タカギとはそれだけの付き合いだった。 オレは絵を描く。ヤツはギターを弾く。収まるべきところにモノが収まっている。第一、正直言ってオレは音楽にはそれほど興味はない。そろそろ夏の絵画コンクールの準備だって始めなくてはいけない。楽器などいじっている暇はないのだ。 バンドの誘いなど即答で断ろうと思った。 が、タカギがもう決まったことのように言いやがる。 「オレがギターで、お前がベース」  何をやっても完璧にこなすヤツ特有の目がオレに迫る。 「他のヤツ誘えよ。オレは美術部やってるし、忙しいんだ…」  相手にするつもりもなかった。だが、タカギは大人びた隙のない口調で押し込んでくる。 「大丈夫だって。軽音楽部と美術部だったら掛け持ちできるさ。お前のセンスなら、ベースくらい簡単にマスターできるって」 得意の軽口で押し込んでくる。そんなお世辞には乗らない。 「オレ、ベースなんかもってねぇし、それにベースなんか弾いたことねぇし…」 なんとか断ろうとするオレ。つまらぬ横槍はやめてくれ。美術部だって結構忙しいんだ。 「心配するな。ベースならオレの兄貴のお古がある。野球部とサッカー部を掛け持ちするわけじゃない。お前ならできるさ。絵を描く邪魔はしない」 ベースなんかいじってる時間があったら一枚でも多くデッサンの練習をしたいところだ。 悪いが他をあたってくれ。そう口から出かけたとき、タカギがニッと口角を上げた。 「由紀にボーカル頼むんだよ」  瞬間、オレとタカギの間に流れていた重い空気が重力を失ったようにフワッと浮き上がった。 「由紀って…」 思わずタカギを見る。 「三組のか?」とタカギの撒いた餌に喰いつくオレ。 「ったりめぇだろ。合唱部の由紀だよ」 ニヤつくタカギの瞳の中に星が散らばっている。 三組の由紀を知らない男子はいない。ショートカットでボーイッシュな髪型にパッチリとした目。いつでも澄み渡った青空のようなはじける笑顔を振りまいている。
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