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タカギは背も高く男前だ。それに頭もいい。入学当初の学力試験だって学年で二番だ。ちなみにオレはビリから数えてひと桁。次元が違う。一年の時の全国模試だって、ヤツは七位になったことがある。全国七位だ。ハンパない。だからといってガリ勉タイプでもない。さらさらの前髪から白い歯がこぼれると、男でもゾクッとする。そのうえギターのテクも抜群だ。
当然、女にもてる。
タカギが由紀を説得すれば由紀は落ちるかもしれない。オレは由紀とはしゃべったこともない。果てしなく遠い存在だ。たぶんこのままいったら永久に接点はない。由紀もオレのことなんか名前も覚えずに卒業する。それっきりだ。それにしてもタカギはどうやって由紀と知り合いになったのだろう。
まあ、タカギならそれくらい朝めし前なのだろう。
遠めにもまぶしい由紀の太陽のような笑顔を想う。
オレの心の中で何かが崩れた。意地とか、プライドとか、夢とか積み上げてきたモノが急に萎んでいく。巨大な力の前で蟻のようなチッポケな存在に変わって、一気に飲み込まれていく。情けないことにオレはその巨大な力の前には無力だった。
「ベースかぁ…」
と上目遣いで高木の様子を探り、二十秒前の発言をどうやって方向転換しようとかと頭をめぐらせる。
ギターもベースもだいたい同じ要領だよな…。ベースは単音だしな。で、オレは三組の由紀と同じバンドのメンバー…。
普通の男子だったら、目が合っただけで一日中幸せな気分になれる。しゃべったりなんかしたら三日間は天国だ。まして、いっしょにバンドになんか組んだものなら…。
たぶん、生まれてこのかた最高に、いや最低に目尻が下がっている。
「それで今年の文化祭にでようぜ。バンド組んでさ。な、だからお前やれよ、ベース」
なるほど、そういうことか。
「そしたら、オレたちスターだぜ」
その言葉がオレの琴線に触れた。ピーンという甲高い音が体幹から頭蓋へと突き抜けた。
スターか・・・。皆に注目されるんだな。女子なんかにも注目されちゃうのかな・・・。
たしかにそうだ。去年の文化祭でも一番ステージを盛り上げた三年生のバンドは、卒業まで完全に校内のスターの座に腰を据えていた。チェッカーズのフミヤのように前髪を垂らしたちょっと不良っぽいボーカルの周りにはいつでも女子が群がっていたし、肩で風を切って歩く姿はまるで学校を乗っ取ったかのようだった。
「うーん、軽音楽部かぁ…。ケーオンとならもしかして両立できるかな…」
タカギはパチンと指を鳴らして、
「きまりだな」親指を立ててオレに向けた。
へっ、相変わらずキザなヤツだ。
由紀への説得は簡単に成功した。らしい…。タカギなら楽勝なのだろう。
バンドの名前は「ブラック☆ピーナッツ」…。タカギが考えて、由紀も賛成した。らしい…。二人だけで勝手に決めていた。よりによって「ピーナッツ」かよ、と思ったが、口を挟む余地はない。まあ、由紀さえメンバーに加わってくれれば、名前なんかどうでもいい。
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