時代物を書く

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時代物を書く

 さて、第九十二回となる今回のお題は、「時代物を書く」です。  私も今正に時代物(大正時代)を書いているところなのですが、まず最初にやった方がいいなと思ったのは、やはり「物語の舞台にする年や季節を決めること」ですね。  時間がほんの少しずれるだけで、存在しない物や出来事が出てきてしまうので、可能なら「何年何月に歴史に登場したか」まで調べられたら、尚いいでしょう。  一つの時代をできる限り正確に書こうと思ったら、政治や経済から当時の生活まで、様々な資料に目を通す必要があってかなり大変ですが、私の場合は現実世界をベースにしたファンタジー作品をいくつか書いていたので、「どこから手を付けたらいいのかわからない」というような事態だけは避けられました。  細部を想像で補っても差し支えないファンタジーと違って、本当に細かいところまで資料を集める必要があるものの、資料を読めば読む程設定ができていくので、いちいち自分で考えなくていいという点では、時代物の方が楽と言えるのかも知れません。  まあ、本に書かれていることが必ずしも正しいとは限らない以上、一つの事柄につき一冊ではなく、できる限り多くの資料に当たって、より正確な情報を得るようにした方がいいでしょうから、調べ物をするだけで相当に時間がかかりますが。  しかし、いくら時代考証が正確だとしても、文章が今風の軽さではなかなか雰囲気が出ないと思うので、当時使われていた言葉をできるだけ作中に取り込んだり、文体を重たくしたりしたりといった工夫も必要な気がします。  あまりに古風な言い回しや単語を使い過ぎてしまうと、本文が注釈だらけになりかねないので、使うのも程々が良さそうですが。  あとは、物語の舞台となる時代を生きた作家さんが、その当時を書いた作品を読んでみるのも参考になりますね。  後世の作家さんが書いた作品は、必ずしも考証がしっかりしているとは限りませんから、作家さんによっては安易に信用すると大変なことになるケースもありそうですし。  私の場合は、泉鏡花の『日本橋』を読んでみたのですが、序盤がとにかく文章が読み難くてページが進まず、かなり苦労しました。  決して悪文ではないのに、「これはモノローグ? それともナレーション?」と首を捻ってしまうような、「どういう意図で書かれたのか、すぐには理解し辛い文章」が一度ならず出てきて、どんな物語なのか理解できるまで、少し時間がかかったんですよね。  『日本橋』の芝居について多少なりとも書く予定なので、頑張って最後まで読み切りましたが。  あの独特の文体に辿り着いたのは凄いと素直に思いますが、どうにも私には合わなくて、「この人の本、何となく今まで読んだことなかったけど、読まなくて正解だった。できることなら、もう二度と読みたくない!」と強く思った次第です(鏡花ファンの方、すみません)。  何だか話が大きく逸れてしまいましたが、時代物は面白く書けるかどうかはともかく、時間をかけて情報を集めることさえできれば、形にはなるジャンルでしょうから、お時間がある時にでもチャレンジしてみて頂けたらいいのではないかなと思います。
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