小さなエピソードを積み重ねる

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小さなエピソードを積み重ねる

 さて、第八十三回目となる今回のお題は、「小さなエピソードを積み重ねる」です。  物語を書く時には、大筋の物語に意識が向かいがちだと思いますが、小さなエピソードを積み重ねることによって、大きな物語を書くことができるので、小さなエピソードもしっかりと練りましょう。  どこかで見たようなエピソードをそのまま書いても、キャラクターの個性や魅力はなかなか伝わりませんし、エピソードを工夫することで、テーマをより印象的に描き出すこともできると思います。  「こんなの読んだことない!」というくらい斬新なエピソードを書けるに越したことはありませんが、既視感のあるエピソードでも、しっかりキャラクターの個性や魅力を書けていれば、いいシーンになり得る気がしますね。  と言うのは簡単ですが、物語を進めながらキャラクターもきちんと書くのは難しくて、初めて「できた!」という実感を持てたのは、現在公開中の『その手に取るもの』を書いた時でした。  あれは魔王達の特性から、大して物語が動かない短編連作だったので、「大筋の物語にパワーを割かなくていい分、魔王をちゃんと書き切ってやる!」と決意して、毎回様々な角度から魔王にスポットライトを当てることに注力することにしたんですね(パートナーの神は魔王とワンセットなので、魔王をちゃんと書けたら、ある程度キャラが立つだろうくらいに思っていました)。  只の思い付きで短編連作にすることにしたのですが、この形式だと毎回切り口をリセットできますから、その都度魔王のどんな一面を書くかをしっかり考えることができて、キャラクターの練習をするには丁度いい書き方だったと思います。  「神の願いを叶えるために、自ら人間の敵である『魔王』になる」ところから始まって、魔王の長所をいろいろと書いたつもりですが、「誓約」の回はラストエピソードの次に上手く書けたのではないかなと、割と気に入っていますね。  魔王も神も不死に近い存在なので、いつか必ず配下達の滅びに直面しなければならないのですが、この手のエピソードだと「誰かがいなくなってしまったことをパートナーと一緒に悲しむ」というのが定番で、魔王のように「全く悲しくない」というのはあまりないのではないでしょうか。  性格が正反対でも、その辺りの感性が近くないとなかなか一緒にやって行くのは難しいと思うので、さもありなんというものですが、「近しい価値観を持たなくても、神が悲しんでいたらそのことを悲しいと思って、ただ神の側にいる魔王と、そんな魔王の優しさをちゃんと理解している神」の姿に友人は愛を感じてくれたようで、「いいカップル」と褒めてもらえました。  テーマが「愛」なので、「魔王がどれだけ神を大事に思っているか」が伝わるようなエピソードを(メリハリを付けるために、魔王の冷酷だったり、かっこ悪かったりするエピソードも書きつつ)コツコツ積み重ねてみた結果、その先にある結末は魔王と神らしいものになったと言える気がします。  私は特に才能溢れる書き手という訳ではありませんから、小さなエピソードを頑張ったところで、凄い作品を書けてはいませんが、キャラクターの個性やテーマなどを勘案しつつ、小さなエピソードをしっかり練って頂けたら、その結果描ける大きな物語は、オリジナリティーが光る素晴らしいものになり得るかも知れません。    まあ、大筋の物語にあまりにも粗が目立つようだと、小さなエピソードをいくら頑張って積み重ねても、カバーし切れないでしょうから、小さなエピソードさえ頑張ればそれでいい訳ではありませんが、できるだけご自分にしか書けないエピソードを見付けて頂けたらいいのではと思います。
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