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そのまますぐに追い、その香りの持ち主を追い越して前に立つ。
「あのっ」
そのひとは背が高いのはわかるけど、顔を合わせたくないから首元を見る。
「あなたのつけてる香水、なんですか?」
「……は?」
戸惑いを含んでるのがわかるキーの高い声。
そりゃ、そうだろうな。
でも、こっちも結構な勇気を出して、見も知らないひとに声をかけているんだ。
こんなこと二度と出来ないよ。
んっと息を吸い、両手を握りこぶしにして、おへその辺りに当てて、お腹に力を入れる。
「あなたの香り、お、教えていただけないでっ」
息が続かなくなって、もう一度息を吸って、頭を下げた。
「……しょうか」
私の視線の先で前のひとのスニーカーのつま先が地面をこすった。
続いて、私の耳に届いたのは、有名ブランドと香水の名前。一回、聞いただけで覚えられる名前。
「ありがとうございましたっ」
必要なワードをいただいた私は、お礼を言って、うつむいたまま回れ右をした。
やっと捕まえた香りを手放さないように、両手で胸を抱き締めて走り出す。
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