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 ふわりとあのひとの香りが風に乗ってきて、後ろから、 「おい」  と声が聞えたけれど、自分が呼ばれてるなんて思わなかった。  それは、あのひとなら、名前を呼ぶはずだから。  「おいって」  力のこもった、イラッとしたような声が聞えて、腕を引っ張られた。 「は? 私?」  引っ張られるまま、後ろに向くと顎を上げて、見上げるほど長身の男のひと。 すこし眉をひそめている表情は、怒っているように見える。  ひととき、見つめ合ってから、そのひとは瞳をふせて、顔を私に近づけてきた。  とたんにわけがわからなくて、ぎゅっと瞳を閉じてうつむく。 「ん、つけては、いないんだ」  耳元につぶやく声が低くく響いて、肩が自然にぴくんと上がった。  うつむいたまま瞳を開くと、見覚えのあるスニーカー。 「あ」  慌てて顔を上げ、そのひとをちゃんと見る。 (あれ、カッコいいひとだったんだぁ)  黒い柔らかそうなストレートの髪と細めで切れ長の瞳は、見ようによってはキツい感じだけど、圧倒的にイケメンの部類の男のひと。
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