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その部屋は、そこだけで自分たちの家の半分ほどの広さがあるのではないか―3人は少々怖気づいていた。床一面にきれいな青色の絨毯が敷かれ、壁際には大きな本棚や机、さらにはピアノまであった。極めつけに、アリアが座っているベッドは天蓋付きで、おとぎ話に出てくるお姫様のベッドのように四方を囲むカーテンが柱に結び付けられていた。
「うわあ、すごい」
3人の口は、さっきからその言葉しか出せなくなってしまったようだった。特にミリーは一目散にベッドの方へ駆け寄ると、ところかまわず称賛を浴びせていた。プンスターは「ミリーにも女の子っぽいところがあるんだな」とチルとこっそり笑った。
アリアは始めのうちこそ戸惑うようすを見せていたが、すぐに打ち解けるようになった。病気がちで落ち込んでいただけで、元来は明るい性格なのであろう。
「これって小さい頃のアリア?」
机の上に置いてあった写真をミリーが見つけた。
「ええ、そうよ」
「うわあ、可愛いなあ。じゃあこの隣にいるのがお母さんね。すごくきれい」
幼い頃のアリアは今よりもお転婆で愛らしい笑顔を振りまいていた。アリアは恥ずかしさと嬉しさであたふたした。
「こっちにいるのは、まだ会ったことないけど―きっとお父さんね。うちのお父さんとは大違いだわ」
アリアの父は黒髪ですらりと背が高く、街にいればそれは目を引きそうな男であった。
「うん。でもお仕事で忙しくて、あんまり家にはいないの。ミリーのお父さんは家に居るんでしょ」
「うん。むしろ居過ぎってくらいぐうたらしているよ。うちのお父さんもアリアのお父さんくらい格好良かったらなあ」
そのうち、プンスターとチルが写真を見て騒ぎ始め、ミリーの言葉はかき消されてしまった。
「はい、もうおしまい。写真を見るのはもうやめにしましょ」
アリアは顔を赤らめて、写真立てを隠してしまった。
しばらくして、ずっと部屋の中にいるのにも退屈してきたのか、プンスターが「せっかくこんなにいい天気だし、庭を案内してくれよ」と言った。
立ち上がったアリアの姿を改めて見ると、プンスターは思わず怯んでしまった。アリアの体は風になびいているレースのカーテンと同じくらい白く、見ていて不安になるほど腕も足も細かった。「そうね」と言って立ち上がった時も、ふらついて思わず3人の手で支えるほどだった。
アリアは体を引きずるようにして歩いた。アリアが1歩、歩くうちに、ほかの3人なら5歩は歩けそうだった。プンスターはいたたまれない気分になり、思わず背負って行こうかと申し出たが、アリアはそれを断った。それから15分ほどかけて、アリアは最後まで自分の足で階段を降り玄関まで来た。
「やったわ。自分の足で来れたわ」
喜びのあまり周りのことも忘れ、アリアははしゃいでいた。3人が見ていることに気がつくと、恥ずかしさで顔を赤くした。
恥ずかしがる必要などない―と3人も一緒になって喜んだ。そしてこのことに一番喜んでいたのは、アリアの母だった。手にしたジョウロを放り投げ、我が子のもとへ駆け寄ると、抱きしめ何度も頭を撫でてやるのであった。
「みんなの前で恥ずかしいからやめてよ」と言うアリアの顔は嬉しそうにほころんでいた。
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