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その庭は、老人と出会った荒れ放題の場所と同じとは思えないほど生気にあふれていた。鉄がむき出しだったアーケードは、幾重ものツルが垂れ下がり緑のカーテンのようで、ひび割れだらけだった道はレンガがきちんと整列し、上品このうえないことになっていた。さらに、庭中は色とりどりの花が咲き乱れ、蝶々の社交場となっていた。
アリアは花のことに詳しかった。庭に咲いている花のことは何でも知っていて、歩きながら3人に解説してくれた。
そんな楽しい時間の中で、チルはなんだか浮かない顔をしていた。
「どうしたんだ、チル。久しぶりにクッキーなんか食べて腹でも壊したか?」
プンスターはこっそり訊ねた。女の子たちは少し前方で、2人の声が届かないところにいた。
「いや、なんでもないよ」
「なんでもないなら、そんな顔するなよ。で、もしなんかあるならおれに話してくれよ」
プンスターにそう言われると、話しづらいことでもチルは話してしまうのだった。
「きっとぼくの考え過ぎなのかもしれないけどさ、こんな大事にお手入れされてる庭がさ、たった40年後にあんなことになっちゃっているなんて」
「そ、それは・・・」
一理あるとプンスターは思った。無意識にポケットの中の懐中時計を握りしめる。声を震わせながらチルは喋り続けた。
「・・・40年後には、アリアもおばさんもいなくなっちゃうのかな」
その言葉は頭をガンと殴りつけてくるようだった。眩暈がするのをぐっとこらえて、プンスターは語気を強くして言った。
「チル、それはお前の考え過ぎなだけだ。うん。きっと、アリアたちは引っ越しただけさ。で、ここは辺鄙な森の外れだろ。だから誰も家の買い手が見つからなかったんだよ」
喋っていることの大半は自分に言い聞かせているようであった。それでも、少なからずチルの心を軽くしたようで「そうだね。ぼくの考え過ぎだよね」とチルは言った。
2人はお互いの顔を見て頷きあうと、アリアたちの元へ駆け寄っていった。
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