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夕日もそろそろ沈みかける頃、アリアの母が4人を迎えに来た。
「今日はみんなよく遊んでいたわね。さあ、暗くなる前にお家に帰りなさい。森で迷子になっちゃうわよ」
母の手は優しくアリアの肩に置かれた。
「はい、おばさん。今日は1日楽しかったです」
ミリーは礼儀正しく言った。
「いえいえ、なにもお構いできなくてごめんなさいね。こちらこそアリアと遊んでくれてありがとうね」
夕日を背景に並んだ親子は、まるで絵画の中のモデルのようだった。
別れの挨拶をしている最中に、アリアは突然思い出したように母の方を振り返った。
「そうだ、お母さん。この前、お父さんが持ってきてくれたカメラがあるじゃない。あれで写真を撮って頂戴。みんなとはまたしばらく会えないかもしれないの。ねえ、お願い」
一所懸命になる娘の願いを母は素直に受け入れた。
「さあ、みんな笑って」
母の掛け声で、ベンチに並んで座った4人はそれぞれ思い思いの顔を作る。
レンズ越しに見える娘の姿は、いつもは暗い顔ばかりしている女の子と同一人物なのが嘘のようだった。
それはとても美しい夕暮れ時のことであった。この瞬間を永遠に残していたい―シャッターを切った母の瞳は涙で潤んでいた。
写真を撮り終えると、3人は森の方へと帰っていった。その背中が見えなくなってからも、しばらく、母とアリアは森の方を見続けていた。
アリアの胸の中は嬉しい気持ちと寂しい気持ちが混ざり合っていた。そのどちらも久しぶりに感じたよう気がした。じっとしていると涙が出そうになって、思わず母に抱きついた。あら、どうしたの―と母が言う。
「写真、きれいに撮れてればいいね」
母はなにも聞かず、そうね―と笑った。薄暗くなった空には星が見えていた。
「今度、みんなと海に行く約束をしたんだ」
2人は明かりの灯った屋敷に向かって歩き出した。
「あら、良かったじゃない」
「わたし、これからはもっと歩く練習を頑張るわ。その時にはみんなと同じ速さで歩けるようになっていたいもの」
母は自分の手を握る娘の力が、こんなにも強かったことを今まで知らないでいた。
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