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少年たちを見送った後、老人は1人屋敷の中にいた。正面のドアは壊されてしまったものの、裏口のドアはまだ機能を果たしていた。ドアのカギはいつも首からかけてなくさないようにしていた。
埃の積もった屋敷の中は、いつの日からか時が止まってしまったように、昨日も一昨日も、そして今日もまた―あの時のまま変わらなかった。老人は自分が置き去りにしてきた時間を、それから何年も経った後になって思い起こすのだった。それから毎日のように、なにもかもが過ぎ去った後のこの屋敷に身を置いていた。
戸棚に入っている食器の並びも、床に敷かれた絨毯のしみの数も、階段の手すりにある細かな傷跡もすべて記憶していた。しかしそれらはすべて自分以外の誰かが生きた証だった。
階段を上り左手の部屋に入った。生まれつき体の弱い子だった。最初は1階の部屋を使っていたのだが、自分の部屋は2階が良いと駄々をこねて、結局その通りにさせてしまった。庭が見えるように、窓は特別大きいものにした。欲しがるものは何でも与えていたつもりだった。そしてそれが最大の愛情表現だと、自分は十分に愛情を与えていると―その時は思っていた。しかし、それはどうやら間違いであったようだ。愛は分け与えるごとに増えていく―と誰かは言ったが、それならば今の自分にはなにも残されていなかった。
机の上の写真立てを手に取る。そこには両親に挟まれて笑顔を見せる幼い娘の姿があった。家族で撮った写真はこれが最後だった。これ以降の娘の姿を、自分は遠くで見たことしかない。
その隣に、昨日まではなかった写真立てがあることに気がついた。それは家族で撮られた写真と同じくらい色褪せていた。しかしながら、写真の中では4人の子どもたちは、今にも笑い声が届いてきそうなほど、きれいに映って見えていた。
第1話.空き家の謎 おわり
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